スギノイチ

続・名もなく貧しく美しく 父と子のスギノイチのレビュー・感想・評価

3.0
前作ではまだ小さかった一郎少年は、成長して北大路欣也になっていた。
開幕早々、北大路欣也とヒロインの大空眞弓が珍妙な曲に乗ってゴーゴークラブで踊りまくる。
(「男が一匹死んでいたあ~」というこの曲の詳細がわかる人いないかな)
戦後間もない情景が印象的だった前作とは対照的に、ビルやオフィス、クラブ等の現代的風俗描写が意図的に多く挿入され、全く違った映画になっている。

北大路欣也は聾唖の息子であると同時に差別者側であるのだが、その辺の苦悩は前半で終了し、後半からは本来サブキャラに過ぎない筈の内藤洋子と田村亮の聾唖同士のメロドラマが展開される。
彼らこそ前作の高峰秀子と小林桂樹の関係そのもので、それぞれ隔離された空間に追いやられた2人が、手話で愛を伝え合うシーンは前作の列車シーン(名場面だ)を踏襲している。
前作の主人公である小林桂樹自身がそれを妨害する、という構図自体は因果的で面白いのだが、どんどん話が変な方向に暴走していく。

そもそも前作からそういう傾向はあったのだが、「周囲の人の性悪度」を上げ過ぎじゃないか?
前作はまだ戦後間もない頃で人々も荒んでいたからという理由付けも出来るけど、本作の時代設定は1967年。
小林桂樹を紹介された大空眞弓が脱兎のごとくその場を逃げ出すとか、ちょっとやり過ぎだろう。
差別を糾弾しようというイデオロギーが強すぎて、前作の様な繊細なドラマが喪われている。
北大路欣也が「汚い社会の中で、聾唖者の中にだけ美しさがある」とか言い出したのはかなりアチャーだったし、内藤洋子と田村亮の足をタオルで結んで「二人三脚だ!」とか言って走らせたのは酷過ぎる。
まあ、前作もラストはちょっとどうなのと思ったけど…

でも、おばあちゃん役の原泉と北大路欣也のやり取りは暖かくて良かった。
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