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川の流れに草は青々の一人旅のレビュー・感想・評価

川の流れに草は青々(1982年製作の映画)
4.0
ホウ・シャオシェン監督作。

台湾の緑豊かな田舎の村を舞台に、台北から赴任してきた新任教師と子どもたちの日常を描いた青春ドラマ。

台湾ニューシネマの代表者、ホウ・シャオシェン監督初期の青春ドラマで、『風櫃の少年』や『冬冬の夏休み』同様、無邪気な子どもたちの日常を瑞々しい映像で綴った逸品。ホウ・シャオシェンは子どもを描く天才。西のイランにキアロスタミがいるならば、東の台湾にはホウ・シャオシェンがいる。シャオシェンが撮る青春映画はノスタルジックであると同時に日本的でもある。今回は字幕版での鑑賞となったが、吹き替え版で観ていたら日本映画と錯覚してしまいそうなほど、日本的。台湾の田舎風景は古き良き日本の風景を彷彿とさせるし、子どもたちが学校に着ていく制服も日本の子どもたちの物とそっくり。台湾映画を観ているにも関わらず、映像からは日本的ノスタルジーが溢れ出す。不思議な心地よさ。

本作最大の魅力はまず間違いなく、台湾の悠然とした自然美にある。光り輝く小川、緑豊かな森林。どのシーンも煌びやかで、伸び伸びとした希望に満ち溢れている。そこで描かれる子どもも、元気と無邪気さでいっぱいだ。何かひとつの目的に向かって物語が進展していくのではなく、そこはシャオシェンらしく日常の些細な青春の一コマをいくつも組み合わせたような作劇。まとまりがないと言えば否定できないのだが、遊び・いたずら・ケンカ・友情・初恋・家出・出会い、そして別れ。誰もが少年時代に一度は経験したであろうエピソードが余すことなく詰め込まれており、思わず子どもたちに共感を覚えてしまうシーンもちらほら。

映像だけでなく演出も卓越している。冒頭、都会からやってくる列車を走って追いかける子どもたちと、終盤、田舎から都会に向かって出発する列車を走って追いかける子どもたち。映像的には単なる繰り返しだが、物語の始まりと終わり、出会いと別れを結びつけるシーンとして印象的。また、違法な漁獲を行う父親に対する反発心から、生き別れた母親を探しに家出する少年の姿に哀愁がただよう。男手ひとつで懸命に息子を育てる寡黙な父と、父への反発心と母不在の寂しさに揺れる息子。父子の繊細な心の機微を捉えた演出は感動的だ。
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