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アビス/完全版のmochiのレビュー・感想・評価

アビス/完全版(1993年製作の映画)
3.6
モンスターパニック映画を期待して観たが、違った。どちらかといえば、「未知との遭遇」に近い。これは単なるジャンルの違いなので、マイナス評価にはもちろんならない。
映画本編自体は、170分あるけど飽きなかった。キャメロンの腕が光る。最初1時間で結構絶望して続きが気になったし、人間同士のいさかいも非常に良かった。パニック映画としては語り高いレベルにあるし、主人公2人のラブストーリーも素晴らしかった。だから、観てる時は星4以上は間違い無いと思った。
ただ、ラスト30分がいただけない。まず、辻褄が合わない。宇宙人にする必要が全くわからない。人類への警告?あんな力がある高尚な存在なら別の方法があるだろ。しかも、自分たちの生活に関係のない星なら、あそこまで人間を攻撃しようとするか?深海の生物だという設定ならリアリティもっとあったと思うけど。あと、姿を明示的に観せない点が非常に魅力的で良かったので、姿を見せたのはやや残念。しかしながら、この2点のみならまだ星4は維持できてたと思う。矛盾があるのはそれ以前からあったし、パニック映画にはつきものだから受け入れられる。2点目も結局私の好みであるし。
遥かにいただけないのは、この映画の終盤で提示されるメッセージである。いただけないだけではなく、犯罪的ですらある。愛に感動したから去っていく、というのは本当に犯罪的な結論だと思う。問題があるのは2点。1点目は、愛は我々視聴者が感じ取るものであり、制作者が実在として押し付けるものではない。蘇生作業やメッセージ交換は非常に愛を感じた。それは私自身の感覚であって、実在としてあるわけではない。それなのに、最後の最後でそれが提示される。一人一人の感覚をイデオロギーに落とし込む、犯罪的な手法だと言いたい。2点目は、愛と悪が対立するという非常にアホなモデルを取り続けている点。人間に愛があることも、戦争があることも分かっている。だから、「戦争という悪い点もあるけど、愛といういい点も人間にはあるよね」というメッセージは何も生まない。むしろ問うべきなのは「愛があるのに、なぜ戦争が起きるのか」「愛が戦争の引き金になるのか、またなるとしたらどうしてか」ということだと思うが、それは全く提示されない。結局これはアメリカ映画の定型的な文法に従っただけの映画になってしまう。「深淵」を本当に覗く気があるならこれらの問いにに挑戦して欲しい。もし、「深淵」という意味にそこまでの意味がないなら、良質なパニック映画であって欲しい。そして、ラスト30分まではそれができていた。
要するに、手法やストーリーの展開は悪くなかったし、演技も良かったのに、キャメロンのメッセージがひどすぎた。だから、私はこれ以上評価することはできない。キャメロンは娯楽に振り切ればいいのに。最初のニーチェの引用も導入としては良かったよ。哲学者の引用したからと言って哲学的である必要は全くないのに。
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