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ザ・ファンのotomisanのレビュー・感想・評価

ザ・ファン(1996年製作の映画)
4.6
 ピッチャーなら最高のスラッガーと対戦したいものだろうが、こんな形になろうとは。これは野球にまつわる犯罪者、デ・ニーロの軌跡なのだが、凶行のクライマックスで不思議にも共感を覚えてしまう物語である。
 少年野球の優勝者でプロ志望。夢は潰えても野球愛は変わらず、当代随一のスラッガーのSF入団を歓迎するも成績不振にやきもき。思い入れの過剰から殺人。ところが、聞こえてきたファンへの批判からスラッガーへの愛憎がこじれ出し人質を取っての脅迫へ。この間、仕事も家庭生活も台無しにする押しとアクの強さが自身を一層追い詰めてゆき、試合中の球場での凶行へなだれ込む。
 行きついたのは何よりも果たせなかったプロ登板の夢をなぞる事だが、幻のエースはそのマウンド上で死ぬ。行き詰った挙句のプリモ選手殺害と違って、最後の1日の凶行の力強さに、死に場所を確信した無頼者の心の昂揚を感じた。そして、この自爆行にスラッガーを直面させ、勝負しろと、俺は張り続けると、俺ならファンにきっと答えると、スターはおまえでなく俺であるべきだったと叩きつける力に感銘を受けた。全く倒錯した事なのだが、才能に溢れてもどこかが弱い大スラッガーへの共感は全くない。
 こういう救われない話なのになぜか13Gも費やして保存してしまう。哀悼の意とかファン故のとか言うのではない。この結末のあわれに引き比べ誇大で激しすぎる主張に対して一分の敬意のような気持ちを覚える。この感覚を何と表そうか言葉も無いが、墓前に手を合わすような感じ、とでも言おう。ばけて出ませんように。
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