あなぐらむ

悪女のあなぐらむのレビュー・感想・評価

悪女(1964年製作の映画)
3.9
シネマヴェーラ渋谷で鑑賞。

小川真由美&緑魔子の「悪女もの」と呼ばれるが内容はさにあらず、これは岡田茂に、いや渡邊祐介監督にやられた、という感じの一本。小川が演じるのは言ってみれば裏「ひよっこ」。今では描かれない、ダークな地方出身貧困女性の戦後昭和残酷物語。
小川真由美は訛りの酷い、器量もそんなに良くない(と本人は思ってる)地味ぃな貧乏女子(この人はパンスケからも落第している)で、1964年というオリンピックイヤーの空気の中、富裕層のお屋敷にお手伝いとしてやってくる。
この物語世界には朝ドラのような「あたたかい」昭和は無く、差別と酷薄と色欲しかない。
彼女は男社会でありながら、上手く立ち回れば女性でもお安く楽しく過ごす事が可能となった昭和元禄の時代(男をダシにのし上がる事は別にこの時代に限った事ではないが)で愚直に、真っ正直に生きようとして破綻する。
結果、御曹司を殺し、刑務所で子供を産むことになるのだが、それにしても、渡邊祐介監督の経歴を知れば知るほど、これが見事な新東宝怪談エログロ映画の転生にしか思えなくなる。
不気味なお屋敷と照明、色欲にまみれた男女関係、猫も出てきます(しかも毒殺)。夜の青春シリーズ直前の梅宮辰兄ィが悪党無双ぶりを早くも発揮、緑魔子サマはシャワーにレズシーンにと全開。
後に緑魔子と何度も顔を合わせる浦辺粂子、家政婦斡旋所長に杉村春子、宮口清二など老け役が充実しているのは、文学座救援映画だったから。
モノクロ映像の中の小川真由美の見開かれた目が夢に出そうな仕上がり。
「女性」性をめぐる状況は、ロマンポルノの時代で前面に展開されていくこととなる。