櫻イミト

バラバの櫻イミトのレビュー・感想・評価

バラバ(1962年製作の映画)
4.0
「絞殺魔」(1968)などの名匠フライシャー監督による宗教史劇の隠れた傑作。主演は「道」(1954)のアンソニー・クイン。キリスト教映画に精通したスコセッシ監督が絶賛する一本。

新約聖書にその名が記される、イエスの処刑と引き換えに釈放された盗賊バラバ。彼のその後を創作した同題小説を映画化。。。

数あるスペクタクル史劇の中でも、最も人間の内面が描かれた傑作だった。 自分の意志とは関係なく自由の身になった悪党バラバは、キリスト教徒からあらぬ批難を受け宗教を憎みさえする。その後、有毒ガスが渦巻く地下での20年間の強制労働、ローマ闘技場の殺し合いショーへの強制参加と、ローマ帝国独裁体制下で理不尽な目にあい続ける中、周囲で信仰を胸に死んでいくものたちの姿を見て、心に小さな変化が起こっていく。

ただし、決してキリスト教信仰の大切さを説く物語ではない。愛を持たず、また愛を得ることのなかったバラバが、苦難の人生において”心の拠り所”を欲する話である。結果としてその対象が、接してきた人々が心の拠り所としていたキリスト教だったのだ。きれいごとを排した骨太な人間ドラマだったと思う。

殆どのスペクタクル史劇は、スペクタクルそのものを娯楽として提供する主旨が強いのだが、本作は個人の内面を描くためにスぺクタクルシーンや巨大セットを用意している。さらに、強制労働や殺し合い特訓のデティールが実に細かく演出されているのでリアリティも感じられた。

バラバのキャラクターは、同じくアンソニー・クインが「道」で演じたザンパノに被って見えた。映画の舞台は2000年近くの開きがあるが、ザンパノのその後を観ているような気分になった。

クインの他にも、ジャック・パランス、アーネスト・ボーグナインと、個人的に好みのクセの強い役者が登場するのも楽しかった。

※皆既日食のシーンは、実際に起こる日を選んでロケした本物。
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