blacknessfall

サウダーヂのblacknessfallのレビュー・感想・評価

サウダーヂ(2011年製作の映画)
3.9
ソフト化や配信を拒むポリシーなので劇場公開を見逃してしまい長らく観ることができなかったけど日本映画チャンネルで放映してくれたのでよーやく鑑賞できた。

現代日本の地方都市の閉塞感、経済崩壊からくる荒廃、そこに住む人々の生活観や意識を俯瞰的に浮き彫りにした傑作。

細かく何人もの人にスポットが当たり各々本当にこのどん詰りの空気に殺られてるを見せられてかなり重い気分になった。
うまいからなんだよ。こんな人いそうだな、とか、似たようなやつがいるな、とか映画の中のお話ではなく自分のいる世界のツラさと地続きだと思わずにいられなかった。

主演と言える二人は土木作業員の中年セイジと若きラッパーのアマノa.k.a. UFO-K
この二人、どちらも痛いほどリアル。
セイジは妻もいるか価値観のズレから関係に虚しさを感じている。心の隙間を埋めるようにタイ人のホステスにのめり込んでいく。
セイジは年齢的にギリでバブルの恩恵を知ってる世代、本人も言ってるように昔は土方の仕事は大変だったけど給料はよかった。でも、今は…
セイジの収入の少なさを責めるわけではないが妻は上昇志向な性格からセイジに今よりマシになってほしいとこぼす。
この"マシ"って言うのは要は土方じゃなくて名刺を持つビジネスマンみたいな世界で生きてほしいってことで、自ら"土方"と名乗り労働者として誇りを持ってるセイジには耐え難いこと。その反動で単に仕事で優しいホステスを理想化していき彼女に執着していく。
セイジはもう二、三十年前に生まれていたら好きな仕事して収入も安定してシンプルな幸せを掴めたタイプに思えた。
普通に生きたいだけなのに、今の時代がそれを阻む、土木作業員なぞ人ではないかのように使い捨てられる現実。
セイジは現実に疲れ逃避している。

そしてもう一人の主演アマノはラッパーだけあってセイジよりは視野が広い。この社会は明らかにおかしい、自分は詐欺られていると自覚してる。年も若いからどん詰りに対して疲れや逃避より怒りと絶望が強い。
アマノの家は父が破産しパチンコ狂い、弟は知的障害者、将来にまったく光が見えない。
そんな中、街にはブラジル人達がたむろし我が物で歩いてる、しかも何か楽しそう、よそ者が人生を謳歌してるのに自分は…。
アマノは自分が苦しいのは外国人が不当に利益を享受し日本人が苦しめられてるという、定番の妄想に入っていく。
この展開はかなり説得力があった。特に日本ラッパーはベタに愛国保守的なのが少なからずいるし、所謂、ネトウヨ的な世界観と親和性が高い部分があると思うので。
Kダブシャインがいい例なんではなかろうか?しかし元々ウヨの気はあったけど、KダブがアメリカのQアノン以上にQアノンになるとは思わなかったよね笑
それはともかく、要するにポップカルチャーの根付き方と社会的閉塞が重なり絶望の捌け口を排外主義に見いだす土壌が確実に今の我が国にはあるんだよね。
ブラジル人達も同じ経済状況下、ましてや"異分子"なんでアマノと同じかそれ以上に苦しいんだけど、絶望と憎しみに憑かれた彼にはそれが見えない。
この映画はちゃんとしてるから、そういうシーンをしっかり画いてる。
車を売ろうとして外国人だからというだけで門前払いにされるシーンが象徴的。

つまり、新自由主義経済に取り残された街でただの庶民、労働者として生きることは閉塞感しかない、それは日本人でも外国人でも同じ。
しかし、コミュニティーは分断され無関心と憎しみが蔓延し誰の胸にも絶望が入り込む。

10年前の映画だけど状況は今もまったく変わってない。てか、ひどくなってる。だからまったく古さを感じなかった(ガラケーだらけなとこ以外は笑)。
自分はこの映画に閉じ込められてると思った。
地方都市には住んでないけど、この街にある絶望も怒りも閉塞も全部あると言い切れる、自分の街にも。
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