さすらいの用心棒

ホワイトハンター ブラックハートのさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

3.3
映画『アフリカの女王』ロケ中の監督の暴走をクリント・イーストウッドが映画化

ディズニー映画『ジャングルクルーズ』が現在公開されているが、男女二人でアフリカの川を下るストーリーは映画『アフリカの女王』を基にしていると言われている。『アフリカの女王』は、アフリカでロケを敢行し、ド迫力の自然を背景にハンフリー・ボガードとキャサリン・ヘップバーンが知恵を絞って川下りのミッションを克服してゆく古典的な冒険活劇で、小学生の時にはじめて鑑賞した時のワクワク感は忘れられない。
リバイバル上映の時に映画館で再鑑賞した際は、徹底したロケ撮影がもたらす技術的困難が容易に想像される環境がスクリーンに映し出され、改めてすごい映画だったのだな、と思ったけれど、この『ホワイトハンター ブラックハート』では撮影中にそれを上回る人的災害があったことが告発される。
災害の張本人はジョン・ヒューストン監督。『マルタの鷹』『アスファルト・ジャングル』『黄金』などハードボイルド・アクション映画の金字塔を次々と生み出し、豪放磊落な性格は『チャナタウン』でジョンが演じた老獪な権力者となって強烈な印象を残した。
そのジョン監督を本作ではクリント・イーストウッドが演じ、自ら監督も務める。シナリオは、『アフリカの女王』撮影に同行した脚本家ピーター・ヴィアテルが当時の監督の暴走を綴った著書を原作とし、ピーター自身も脚本に参加している。
だから、本作のジョン監督のイメージ像は言わば告発者側から作られたものになるが、それでも作品の理想を曲げず、人種差別に抗議し、ズケズケとユーモアとウィットに富んだ台詞を放つ”カリスマ映画監督”が演じられ、頑迷で自己中心的だがどこか憎めないキャラクターになっている。そりゃ、イーストウッドが演じているだけでイメージ的にはプラスになるけど。
このジョン監督が、アフリカに来た途端にダメ監督になってしまう。まったく映画を撮ろうとせず、撮影を放っぽり出して象のハンティングに出かけてしまうのだ。早く撮れよとスタッフからせっつかれても、撮らせたいなら早く象を撃たせろ、と突っぱね、「これじゃ、破産だ!」と嘆くプロデューサーを横目でまた象狩りに出かける。果ては、脚本家を差し置いて仲良くなった原住民にシナリオの改定まで依頼するようになる。
このめちゃくちゃな振る舞いがやがてラストの大事故につながってゆくのだが、この事故が実際にあったのかどうかは資料がないのでわからない。だが、ロケ地での振る舞いが不評だったことは本当らしく、出演者のキャサリン・ヘップバーンに『「アフリカの女王」とわたし』という本まで書かれている。
それでも生まれたのは傑作だというから、映画というものはわからない。

一年ペースであれほどの良作を撮り続けるイーストウッドにとってジョンの撮影放棄がどのように映るのかは想像に難くないが、俗な表現をとらずひとりの男の破滅を描くロシア文学のような語り口を選んだところに、映画作家としての敬意を感じずにはいられない。