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回転のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

回転(1961年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

原題"The Innocents"、原作はヘンリー・ジェイムズの"The Turn of the Screw"(1898)。

脚本家の一人がトルーマン・カポーティ。

ガバネス(女家庭教師)のミス・ギデンズが、裕福な紳士に懇願され、彼の甥と姪の面倒を見ることになる。イングランドの田舎屋敷にやってきた彼女は、黒衣の女の幽霊と、黒髪の縮れ毛の男の幽霊を目撃するようになる。使用人のグロース夫人の証言から、そこに住んでいた家令のピーター・クイントと自分の前任者のミス・ジェセルが亡くなっていたことを知る(クイントは泥酔の末、階段から落ちて死亡、彼の恋人だったジェセルは屋敷の敷地内にあった湖で泥酔自殺)。ギデンズは子どもたちが彼らの霊に取り憑かれていると思い込み、二人を救うために奔走する。…

あらすじから書くとこういう感じになるが、本作では早々に幽霊を見るのがギデンズだけ、ということが明らかになる。映画オリジナルのタイトル(無邪気な者/無罪の者)から、マイルズとフローラの二人の子どもたちは幽霊に憑かれてなどいなかったことが明らか。

ギデンズはフローラとマイルズに詰め寄り、悪魔の名前を言わせようとする(「あなたに取り憑いている人の名前は?」としつこく追及する)。すでにジェセルとピーターの名前は分かっているのにそうするのは、彼女が田舎牧師("country vicar"と叔父は言っていた)の娘であり、子育て経験のない未婚者であることが影響している。

名前を言わせようとするのは悪魔祓いの影響だろう(本作に登場するのは悪魔ではなく幽霊だが)。

ギデンズに詰め寄られたストレスから「汚い言葉を発する」フローラを既婚で子育て経験のあるグロース夫人は受け入れるが、ギデンズは「何か邪悪な者に取り憑かれている証拠」と思ってしまう。汚言症もまた、悪魔憑きの症状とされる。

反抗期の子どもが物を投げたり汚い言葉を発したりするのはよくある光景だが、自ら出産しておらず子育て経験がないギデンズにはそれが分からないため、悪霊に取り憑かれていると勘違いした、ということが暗に示される作劇。

叔父が会いに来ることを期待したり、子どもたちの件で屋敷に呼ぼうとするのは彼女が自分でも気づかないうちに交際相手の男性を求めているからである。

フローラと使用人を人払いしマイルズと二人きりになったのは、マイルズが寝る前に彼女の唇にキスしたことにより、彼を異性として意識するようになったからだろう。

彼女がマイルズを詰問し、ピーター・クイントの名前を言わせたあと、マイルズはショック死する。そのあとに彼女が彼の唇にキスをすることにもまた、性的なニュアンスが表れている。

フローラとマイルズの二人は、クイントとジェセルの逢引きの様子を目撃していた。それが二人に性的な知識を与えた。マイルズとフローラはギデンズの目の前でキスをすることにより、二人が何か不適切な関係であるという疑念をギデンズに与える(彼女はマイルズがフローラに「秘密だよ」と耳元で言い聞かせている悪夢を見る)。

マイルズがパブリックスクールを放校になったのは、夜に変なことを言い徘徊し、他の生徒に悪影響を与えると学校側に判断されたため、ということが、終盤のギデンズの詰問により、明らかになる。現代の目から見ると「かつての家令と家庭教師の夜の逢引きを目撃して、性的な知識を身につけショックを受け、自分でもその様子をパブリックスクールの寮で再現してしまったからだろう」と推測できる。

それが男性経験のない潔癖な教育者であるギデンズの目から見ると、「邪悪なものに取り憑かれている」と映ったのかもしれない。

そのため、「性的な妄想に取り憑かれているのはギデンズの方で、子どもたちは彼女の犠牲になった」と断ずることはできない。なぜならあのままだと、マイルズがフローラとともに亡くなった二人の行為の再現をしようと試みた可能性があるから。

かなりはっきりと幽霊の姿が見える幽霊映画である。

映像中、ミス・ジェセルは遠景で捉えられていてよく見えないが、ピーター・クイントの顔がはっきり見えるのは、ギデンズがジェセルの話については耳にしたのみであるのに対し、ピーターの写真は屋根裏部屋で見ているからだろう。その意味で、「幽霊はギデンズの脳内にしか存在しないのかもしれない」と言う余地はある。

本作の幽霊表象が鶴田法男、黒沢清、高橋洋といったJホラーの巨匠たちに影響を与えたらしい。窓にはっきり映る男の幽霊よりも、遠景で映る黒衣の女の箇所だと思う。
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