けーはち

わさおのけーはちのネタバレレビュー・内容・結末

わさお(2010年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

ネットやテレビ番組で一世を風靡していた白いブサカワ秋田犬「わさお」が“本犬”役を演る人間&動物のありがちなハートフル映画、と思いきやトンデモ怪作映画に仕上がっている🐶

軸になるのは、わさおと飼い主の離別と再会までの物語。そこだけ聞くと至って普遍的な類型ではあるのだが、

【離別】
 ・飼い主の母親を事故に巻き込み昏睡させる
 ・東京の親戚の下に厄介払い
 ・脱走して東京→青森まで帰還
 ・飼い主の家に帰るに帰れず白神山地で野犬化

【再会】
 ・飼い主、昏睡状態の母親を見舞う
 ・道中トラブルがあり白神山地で迷子に
 ・襲ってきたクマをわさおはボロ雑巾に

というアイドル犬らしからぬ悲壮な背景をもって白神山地の主たるバケモノ犬に成長、ほとんど無傷のまま単騎でクマを屠る異常な戦闘能力を見せる(実際は予算の都合なのか、ボロ雑巾と化した死骸🐻だけを見せるが……)。

面白いのが、本作のわさおの異常性を「神秘的な力」と解釈できそうな点。本作は彼が住んでいた青森の町おこしの側面もあり、町の人々の営為、地元のトライアスロン大会やねぶた祭りといったイベントの描写が大量に含まれる。一見それらはわさおの物語からズレた、ただの水増しや後援団体の宣伝なのだが、先述の事情から野犬として生きるわさおは超然として人と触れ合うシーンが極端に少なく(俳優陣に対してあまり懐かなかったのだろうが)一定距離を置いて人間とその飼い犬の営みを見守る姿が目立つ。特に老犬の死を看取るシーンは味わい深い。次第にただの野犬でなく人間と自然の間に立ち両者を見守る超越的・神秘的な存在にも見えてくる。

決定的なのは、ねぶた祭りのシーンで、わさおを象った白犬の人形型山車灯籠が登場するくだり。映画制作中に現実世界のねぶた祭りと連動していたのかもしれないが、少なくとも劇中の描写のみでは、何の前触れもなく住民が啓示を得てわさおの灯籠を作成していた。それは彼が一頭の犬の域を超えて民間宗教の信仰対象に変成したと解釈する他にはない。飼い主の母親の昏睡はわさおに宿った神秘の生贄でもあり、わさおが飼い主と再会、飼い犬に戻り神秘性を捨て去る瞬間、昏睡状態は回復する。それでも一度人々の心に根差した信仰は容易に消えず残り続けるのだろう。

ただのアイドル犬の流行に便乗した軽薄な企画映画なのに、世界遺産に登録された白神山地の主たる白い犬神=わさおの神話とも言うべき伝奇的世界観を展開する本作。冷静になって見るとハートフル人間&動物ドラマ方向にも奇想天外方向にも「もうちょっと何かあっただろ!」という感が否めないトンチキさで、制作陣が何をどこまでやりたかったかは非常に気になるところである。