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新源氏物語のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

新源氏物語(1961年製作の映画)
3.7
『新源氏物語』
1961(昭和36年)
大映

光源氏「私もいつかはこんな生活を切り上げなければならないと思いながらなかなかそれができない。しかしいずれは葵の思う通りの夫になるよ」
葵の上「なら何故もっと清らかな生活をしようとなさらないのです?」
光源氏「それにはまだ若すぎるのだよ。長い事ではない。私を憎んでも良いから嫌わないでおくれ。憎まれたのは取り返せるけれども嫌われたのは取り返せないからね」

大映による三回目の源氏物語の映画化。一回目『源氏物語』(1951)は与謝野晶子版を元に谷崎潤一郎が脚本監修。脚本は新藤兼人。監督は吉村公三郎。主演は長谷川一夫。未見だけど光源氏の青年期までを描いた作品らしい。

二回目の『源氏物語 浮舟』(1957)は北条秀司の原作。脚本は八尋不二。監督は衣笠貞之助。主演は長谷川一夫。未見だけどこれは光源氏亡き後の宇治十帖の部分の映画化だろう。

三回目の本作品は川口松太郎原作。八尋不二脚本。監督は森一生。主演は市川雷蔵。映画化されたのは光源氏の誕生から官職を退き須磨に行くまで。

森一生さんは『不知火検校』『薄桜記』『ある殺し屋』など俳優の新しい圧倒的な魅力を引き出した作品の監督だ。

今回目を見張ったのは桐壺の更衣と藤壺の二役を演じた寿美花代さん。華やかな美しさと義理の息子(光源氏)との許されない愛に苦しむ苦悩の表情の素晴らしさ。

末摘花(水谷八重子)は原作では生真面目で誠実な性格で長い鼻の醜女と描かれているがこの映画では積極的に源氏を誘う陽気な美女だ。

六条御息所を演じた中田康子さんは宝塚出身。大映に入社してちょうど社長の永田雅一とパートナーだった頃。六条御息所が嫉妬のあまり生霊となる場面は光学撮影を使った特撮で霊体が体から分離するところが描かれていた。

むかし大和和紀さんの『あさきゆめみし』で読んだ場面が思い出された。源氏物語の入門としてわかりやすい。

そして光源氏は自分で認めているようにあまりにも軽い浮気者だ。母の面影を求めるだけでなく色んな女性に手を出す。結局、どの女性たちも不幸にしていく。この映画のラストが藤壺が出家するところで終わるのも「女性が幸せになって救われるためには男性との関わりを断つしかない」といっているみたいだ。

実は『源氏物語』が女性達にずっと読み継がれてきた本当の理由はその辺にあるのかもしれない。

豪華な寝殿作りのセット。色彩豊かな衣装は見事の一言に尽きる。
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