レオピン

コンドルのレオピンのレビュー・感想・評価

コンドル(1975年製作の映画)
4.0
外は雨 聞こえるのは読み取り機械の作動音だけ この静けさの中で一瞬にして凶行が行われる

コンドルの3日間はこの冒頭のシークエンスの見事さに尽きる。それ以降も、走ったり飛んだり派手なアクションは一つもないのに、ずっと異様なテンションは保たれたままだ。  

最後の最後までなぜ襲われたのかが全く分からない。オランダ語 スペイン語、アラビア語のミステリー小説に隠されたものは一体何だったのか。それらの地域に共通するものは?

彼は末端ながらも組織の人間らしく、声もあげずにさっとなすべき行動に移る。ロバート・レッドフォードが扮するジョー・ターナーは世界中のありとあらゆる本・雑誌・コミックを読み、その中から工作に関わる暗号やメッセージを読み取って報告する「読み屋」である。実戦経験はない代わりにその読書から培われたテクニックを駆使して追っ手から逃げる。

電話回線から相手のいる場所を特定したり、逆探知されないようブロック全ての電話回線につなぎ混乱させるところとか。この辺りの通信のかく乱はアナログな技だがスパイものの常套手段。路地裏に停まる偽装バンとかダミーのオフィスや会社など、一枚レイヤーを外せばきっと世界はこうなのだと思わせてくれる。


暗殺者ジュベールにマックス・フォン・シドー あのケロっとした態度が逆に怖い。散々命を狙っておきながら最後 一緒にヨーロッパ来ちゃいなよって誘ってたし

CIA管理官のヒギンズにクリフ・ロバートソン あちらさんも同じことをやってるんだと、冷戦時代の現実を語る

CIAの長老にジョン・ハウスマン。蝶ネクタイ姿が明らかにアレン・ダレス。ダレス本人は69年に亡くなっているが。第二次世界大戦の頃のドノヴァンとかを懐かしがってた。昔はよかったー

フェイ・ダナウェイのキャシーがなぜ心を許したのかは分からない。危険なことをしてみたかったのよ症候群か。偶然選んだにしては出来すぎた女性だ。この人の目が好き。彼女を見ると「イデオン」のシェリルさんを思い出す。
キャシーの自宅で彼女を縛る際、抵抗する彼女にターナーは、I know 分かっている
ジュベールも最初のシーンで同じ台詞を吐く。男にこんな事を言われたら抵抗などしようがない。

この時代って陰謀ものが立て続けに作られた。ケネディ以降、共産主義の脅威よりも国内に得体のしれない真の敵がいるんだと多くの人が感じるようになり、ウォーターゲート事件によってそれが高まった。ざっと政府機関から追われる系の作品を挙げても、『パララックス・ビュー』(‘74)『カプリコン・1』(‘75)『マラソンマン』(‘76)『コーマ』(‘78)

90年代に入っても特に『JFK』以降にたくさん作られた。『ペリカン文書』(‘93)『マーキュリー・ライジング』(‘98)『エネミー・オブ・アメリカ』(‘98)

明らかにハリウッド映画の一つの王道ジャンルを築いた。劇中にはCIAの中のCIAという言葉が飛び出すが、この国家内国家というのはそのままディープステートへつながる。既に見られるこの構想が今どき陰謀論の重要なポイントでもある。

この作品はポリティカルサスペンスの傑作というよりも、コンスピラシーパラノイアものの先駆けといえる。それを象徴するのがあのポスターデザイン。日本のは誤解をまねくがあちらのはCIAのイーグルの翼の下に双眼のデザインというなかなか秀逸なもの。よく町で見かけるにらむ目の隈取マークみたいでけっこう怖いよ 見とるでー

他にも見どころはNYのロケーション。懐かしい貿易センタービルの外観から珍しいビル内部での撮影シーンも。貿易センタービルとか言うとまた違った陰謀論を呼び寄せそうだが・・・

あとみんな服装がよい。ジョー・ターナーは研究家タイプ。コミック好きのオタク青年ってことでナードっぽい人種として描かれるが、グレイのツイードのジャケットが冬の景色によく似合う。途中から黒のピーコートへ服装が変わるが、あれ結局キャシーの彼氏の服借りたままだよな。借りパク疑惑だー

てなわけでニューシネマ二大スターの共演作。デイブ・グルーシンのテーマも相まって激シブで激甘でスムースな世界に浸りたい時にはぜひ オススメです!


⇒キャシーと別れる駅はホーボーケン駅

⇒YouTube Goodbye For Kathy – Love Theme From “Three Days of the Condor” (Live at Prague Proms 2018)
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