【1973年キネマ旬報日本映画ベストテン 第9位】
本作のマドンナは浅丘ルリ子。今までの上品で控えめな女性とは異なり、寅さんと同じように場末の歌手。最後はいつものオチがつくものの、寅が好きと言い続けるヒロインという異色作。
これはシリーズ史上3本の指に入る傑作では?中盤少し人情味の押し付けを感じたけれども、最後には切ない涙が出てきた。間違いなく今までとは違う。
浅丘ルリ子をマドンナに持ってきた。これでもう優勝!華やかな顔と明るい性格、流しの歌手としての自分にもう限界が来ている。こんなキャラは今までマドンナにはいなかった。
終盤は寅さんに負けないくらい意地っ張り、それ故にこんなにタジタジになって振り回される寅さんは初めて見た。
寅さんと喧嘩したリリーは出ていってしまう。寅さんが出ていくのではない展開は珍しいのでは。
北海道のくだりはあまりよく分からなかった。あれいるかな。酪農は大変だという描写はしているけど、看病までして東京からの荷物を喜んで受け取って…という過剰にいい人という描き方はやり過ぎに感じた。北海道のおおらかな人という偏見があるのではと北海道出身の僕としては思わずにはいられなかった(『幸福の黄色いハンカチ』にもそれは感じた)。
まあとにかくリリーが群を抜いてステキ。寅さんは「可愛そんな女なんだ」と繰り返すが、さくらは「あの人賢い人よ」と見抜く。オチからするとやっぱり女同士、分かるんだねと。
コメディ演出はいつもながらよかったが、叙情的な演出も今回は多めだったと思う。中盤それが過剰になったものの、ラストの駅のくだりは泣いてしまった。
リリー(浅丘ルリ子)の魅力、そして笑いの中の哀しみを上手く描いた演出が素晴らしい傑作。