ルサチマ

ゲゲゲの女房のルサチマのレビュー・感想・評価

ゲゲゲの女房(2010年製作の映画)
4.2
年末を境港で過ごしていたので見逃していた映画版の方を鑑賞。いっさいオープンセットを作ったりせずに現代の調布パルコの前で当時の衣服を見に纏った吹石一恵が佇む様子になんだかとても惹かれる。近代的装置であるカメラを用いることでしか成立しない表現の中で、いかに目に見えない前近代的な霊性(妖怪性)を醸し出すかどうかが映画表現なんじゃないかとここ数年本気で思っているのだが、水木しげるという人間を通して、妻の布枝が見えないものを見通そうとすることが日々の生活の営みと分かち難く結びついているという反時代的な精神を獲得していく物語だとすると、それは凄く親しみを抱くものだった。
大人になるというのは成人になる儀礼を果たすことではなくて、今この目の前には見えなくとも必ずもっと美しいものがあることを知っていて、その存在を想像出来るかどうかなんだとするなら、布絵は困窮したジリ貧生活の中でも水木しげるの漫画と彼が見通すフィクション世界から目を逸らすことなく、眼差そうとした理解者であり、それによって女房となっていったんだと思う。水木しげるの漫画を読んで育った一人として、この映画の存在はドラマ版とともに忘れられない。
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