ルサチマ

泣き濡れた春の女よのルサチマのレビュー・感想・評価

泣き濡れた春の女よ(1933年製作の映画)
5.0
北海道の炭鉱労働者を描いた物語ではあるが、実際の中心となる舞台は労働者たちが遊びに出かけるバーであり、空間と人物配置のモダンさを存分に堪能できる。見どころはいくつもあるが、やはりお浜が言葉で健二を言葉で自分を誘うよう「それから」を反復し、中断と運動が連絡されていく室内シーン(しかもこれは後半で人物を変えてもういちど繰り返される)は白眉であろう。もうひとつ、健二が女を巡って衝突する男同士の親分と子分の上下関係とは別に、兄弟関係に近しい友情のドラマを担う忠公の存在は、映画の暗さをどこかユーモラスに異化する役割を果たすという意味でも重要なのだが、お浜とのデートシーンで『お早よう』を先取りするようにひたすら天気の話を繰り返すという横滑りを演じてみせる。この場面で、同ポジションのオーバーラップを駆使して人物配置を変え、時間経過を見事に証明してみせる手腕も清水宏のお得意の技法ではあるが、やはり素晴らしい。
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