zhenli13

飛べ!フェニックスのzhenli13のレビュー・感想・評価

飛べ!フェニックス(1965年製作の映画)
4.3
2018.7.23
この作品には手放しに感動できない凄味がある。
極限状況のなか皆で力を合わせて危機を乗り越えたとか、そういう簡単なカタルシスを感じるようにはできていない。久しぶりに観て、またもアルドリッチの描く「人の尊厳」を強く噛みしめることとなった。

その尊厳は、そこはかとなく哀れだ。判断ミスに落ち込む機長ジェームス・スチュワートの青い瞳。精神障害を疑われ信用されないアーネスト・ボーグナインの真ん丸な瞳。穏やかな補佐役であろうとするリチャード・アッテンボローの悲しげに澄んだ瞳。常に皆が揺らいでいる。
嘘はついてないが「ごはん論法」に似た揺るぎない理論を展開したハーティ・クリューガーですら、不安な様子は見せる。しかしそれ以上に、脇役の軍曹ロナルド・フレイザーへの焦点の当て方が気になった。逃げ腰の彼は卑怯で臆病に見えるが、実はこれが肝なのかも。2度目に「逃げた」ときがまさにそれ。

軍曹は上官に対して自分の意思を示すことは許されない立場だが、このとき正面から命令に背くことを表明した。大尉の判断が適切とは思えない。その命令に従って命を落としたくないという彼自身の意思。その行動は卑怯とか臆病ではなく、1人の人間の尊厳の表れだ。

アルドリッチの、人としての尊厳を保ち生き抜くための手段を選ばない物語。それが脇役にまで完璧に据えられている。死んで花実が咲くものか。アルドリッチの物語に震える。
かつてそれを看破した押井守の対談は忘れられない。

2013.4.7
リーダーとなるべきパイロットに迷いがあって、副パイロットは腕は良くないが一生懸命パイロットを鼓舞し、専制的に先導する設計士が実はとんだトリックスター(しかも作戦なのか天然なのか不明)だったりして、誰か1人がカリスマ的に事態を収集している訳でない所がまた好い。
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