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悪は存在しないのzhenli13のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
フォロイーの方が『ライク・サムワン・イン・ラブ』を想起すると書かれていて、あぁたしかにと。寓話的な衝撃、それは神のいたずらとでも言うべきか。本作がその域にまで至っているかはわからないが似たものを感じるし、この顛末は自然の摂理という感じもした。善も悪も無い、脅威への対処。その代償もまた自然の摂理。
大美賀均演ずる巧が自然豊かな集落を知り尽くしているからだけでなく、広義には補助金目当てで開発に着手しようとする芸能プロダクション会社の与する経済構造、資本主義または新自由主義という構造もまた、生き物としての人間の歴史のなりゆき、なれの果て、という意味で自然の摂理とも言えるかもしれない。人間社会で生産された栄養豊富な食料が簡単に入手できるとわかれば、山にいた動物は人里に下りてくる。それも自然の摂理とも言えるかもしれない。人為が環境を破壊し自らの首を締めても、生産し殖やし続けるという構造を捨てないかぎり、そうなっていく。ただそうなっていくことは、自然の摂理と言えるかもしれない。

陸ワサビや仔鹿の白骨はまさに豊かな自然を象徴するものであるが、ここで陸ワサビ主観ショット、仔鹿の白骨主観ショットというものが闖入する。陸ワサビにも白骨にも目は無いし移動もしない。それらが人間の行動を見つめる。とくに白骨主観は渋谷采郁演ずる黛の後ろ姿を追う。その可笑しな視点は都会から来た彼らを(ときに暴力装置となりうる)自然の摂理に包含する。
にしても鮮やかな映画の嘘は、最新テクノロジー的なものを全く必要としないのだなぁ。

プロの役者ではないらしい演者が魅力的であるなか、花を演じた西川玲はいかにも美少女の風情がある子役、森の中を歩くようすは今まさに同館でかかっている『ピクニックatハンギングロック』を彷彿とさせるが、彼女の顛末も含め、ちょっと典型的すぎるきらいがある。ここは素人の子ども(でも魅力のある。ブレッソン作品のような)を採用してほしかった。大美賀均のほか、説明会で喧嘩売る金髪の鳥井雄人も好かった。

予告編で石橋英子の音楽と映像にこれは観たいなと思ってた。劇伴やっぱりよかった。突然ぶつ切られるのがゴダールみたいと思ったらインタビューで濱口竜介がゴダールだと述べていた(笑) オープニングタイトルはもろにそうだった。
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