NM

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのNMのレビュー・感想・評価

3.8
911のパニックをアクション的に撮った作品かと思ったら違った。事件の後の、ある少年の物語。

少年・オスカーは、3人家族。特に父親と大の仲良しで、冒険仲間であり大親友でもある。

この少年はとても頭が良いが、とても繊細で鋭敏な感覚の持ち主。同級生に「ビビり!」とからかわれる場面もある。
父もそれを気にして、他人と会ったら会話するように言ったり、会話のきっかけになるよう彼に面白い名刺を作ってやったり、アスペルガー検査も受けさせたそう(結果は疑いありだったそう。)で、他人とコミュニケーションを取れるよう色々工夫をしてやっていた。

その父が911で死亡。
少年はますます敏感な感覚になり、心を閉ざす。煩わしい雑音、人ごみ、電車やバスに乗る、橋を渡ることなどが苦手になりできない。それと理屈の通らない、大人の都合や機微が理解しづらい。普通でもこんな事故を受け止めるのは困難なのに、年端もいかないこの敏感な少年の苦悩は計り知れない。

父の部屋で、謎の鍵とメッセージを見つけたことで、
父親のことを調べるため、ある冒険をすることになる。

休みなく徒歩で冒険を続け、怖いながらもたくさんの人と会い続けた。持ち前の根気と賢さ、豊富なアイデアと、異常なほどの探求心で調査を進めていく。

とは言え、最愛の父を失った上に、調査の結果はなかなか得られず、子どもが知らない人を何百人も訪ねるなんて、怖くて自分が「バラバラに崩れてしまいそう」なほど、辛い。限界を超えるほど頑張った彼は、調査を続けるほどに、傷ついてもいく。

冒険を通して、他人にはない彼なりの良さを発揮し、伸ばしていく。初対面の人とも深い会話をし、人の気持ちが理解できる、愛情深い少年となっていく。

そして残された母親との距離も深刻。母に罪はないが、パパっ子だったこともあり、この少年と理解しあうのに困難を要するのは無理もない。

実は少年も、母親も、他の人々も秘密を抱えており、それ故すれ違いが起こる。
そして冒険の結果は意外なもの。大きなものを失ったけど、代わりに彼は様々なものを得た。
そして冒頭で父親が語る「第6区」の秘密の顛末とは。

ラストは救いも少しあるが、全体的にはやはり深刻な話。胸に重いものを落とす。

何も答えてくれずすぐ追い返す赤い家の女性が印象的だった。ラストを見ると分かるが、彼女も語れないほどの何か重いものを抱えているのだと思わせる。
登場する人みんながそれぞれ傷ついている。
NM

NM