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僕の村は戦場だったのMoviePANDAのレビュー・感想・評価

僕の村は戦場だった(1962年製作の映画)
4.8
『消された心の灯火』

戦争によって一番多く生み出されるものとは?

タルコフスキー監督、長編としては事実上の一作目。後期になるにつれ、芸術性の侵食が劇中に拡がっていったタルコフスキー映画ですが、この作品に関しては芸術性と娯楽性が同居。早い話が“観やすい”タルコフスキー作品という事になると思います。しかし、そんな事より何より長編デビューでありながら、これが驚くべき完成度!ある意味、もう既に完成していると言ってしまいたくなる程です。

主人公はドイツ軍に両親と妹を殺された12歳の少年イワン。今は、その子供であるという特性を活かし偵察の任でソビエト赤軍に協力をしています。幸せと喜びで描かれるあの頃と、戦渦という現実。“現実の方が悪夢”な少年の悲哀がせつなく、自ら特命を望む姿は痛々しい。

この映画でひとつ特徴的な事。それは、戦の只中より前線から少し引いた場での時間が描かれる事。その一番の象徴が白樺林での場面。一見、少年とは関係ない場面ではあるのですが、戦争というものをこんなアプローチで浮き立たせるとは!世が戦の最中であっても、男っていう生き物は...

あと、象徴的だったのが「少年には復讐だけだ」という台詞。もしかしたら本当にそういう想いでいたのかもしれないけど、これはむしろ大人が勝手に決めた代弁であり、味方が言うこの言葉にすら戦争の辛さを垣間見る。確かに率先して偵察の任を望んでいる様にも見えるけど、最早少年の心を埋めるのはその戦争に身を投じる事だけだったんじゃないのかな。

そして、描かれる戦争の末路。
歓喜と共に映し出されるものは、まさに
「戦争によって一番多く生み出されるものとは?」の答。勝利の喜びに酔えるはずのない生の反対が、現実として横たわる。そして、まるで夢想の様に描かれる少年の本来の人生が、ぐうっと胸を締め付けるのでした。
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