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逢びきのScriabinのレビュー・感想・評価

逢びき(1945年製作の映画)
5.0
主役の顔が好き。いや一番好きなタイプかも。ジャンヌモロー系。追っかけよう。

○映画でどれだけ主観を押し出せるかの挑戦だと思って見てた。日記文学というか独白スタイルをしつこいほど音声に置き換えてみる。強迫症なまでの語りたがりや冗長なクロースアップも主観性の強調だと思えば納得。
○列車が影の主役。斜めに突撃してくるショットはもはや自己言及。タイトル「木曜日」とか「駅で」とかでも良かったんじゃない?列車で思い出すのは『アンナ・カレーニナ』。不倫ものだし、列車の中でどきまぎするのも似てる。何よりラスト!ここで自殺できないのがイギリス文学だなって思う。列車といっていつも思い出すのが『クララ・シューマン 愛の協奏曲』。疾走する愛と苦悩、心を置いていくかのように体を連れ去る暴力装置。19世紀文学って感じがする。
○嘘に嘘を重ね、娼婦のように成り下がる主人公は『夏の嵐』のリヴィアのようでもあり、許されない恋に身を任せる男女はトリスタン+イゾルデ物語の変奏にも聞こえ、伝統的な物語をtrivial things に乗せて送るのがヴィクトリア朝的。もうヴィクトリア朝じゃないと言いながら、主人公の心境はシャーロットの乙女からクーパーの《虚栄》へ。とはいえ現代劇であることを強調してるのはとても好ましい。クロスワード、映画、薬局、ショッピング、手回しオルガン、サーカス、パントマイム、電話しながら化粧するところ、ドライブ、自動車事故…『天使の渇き』で主人公がペイストリー食べてるシーンが印象的だったから、喫茶店のマダムまで娼館のマダムに見えてしまった。
○逢引きというよりデートだろってくらいにベタすぎた。あまりにも男の方が胡散臭すぎて、これは女が騙された話なのか?とか思ってしまった。ずっと旦那の前でこれまでの経緯を思い出してるのも不自然だし。説得力って難しいですね。
○音楽目当てに見たけど期待外れだった。シーンにジャストなポイントを選べないのは仕方ないにしても、キリが悪すぎるところから始めるのはやめてほしかった。アメリカらしい曲だと思ってたから、英文学に使うとは何事…?と思ったけど、現代化するイギリスと捉えれば、まあ。何度も聞きすぎている曲が映画で使われるのは少し辛い。『シャイン』も残念だったし。1997版『ロリータ』みたいな映画にはなかなか出会えない。
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