石井輝男監督、ラストの10作目にして大冒険。それまでの明るいエンタメ路線を捨て、ハードボイルドなアクションにしようと、健さんと谷隼人以外のレギュラーメンバーを全員降板させて設定をまたリセットするという、セルフリブートとでも言うべき意欲作。おまけに共演陣に菅原文太、梅宮辰夫、安藤昇と、のちに実録やくざ路線を盛り上げるメンツが健さんに勝負を挑んでくる。これまでのシリーズで名言製造マシンのスーパーマンと化していた健さんのキャラクターをわざと未熟なチンピラ野郎に設定しなおしたのも心意気だ。
そんな感じで座組みには大いにワクワクしたけど、シリーズの隠れた魅力だった洒落っ気まで控え目になってしまいとても残念。この面では梅宮辰夫の飄々としたキャラは唯一の救いだった。
馬に乗ったアクション場面ではコマ落としを多用してスピード感を出そうとしているのだがさすがにちょっとやりすぎで、サイレント喜劇のようにコマコマした動きの中で、安藤昇の声が普通にアフレコされているのが滑稽に見えてしまった。コマいじりといえば、同じく西部劇をルーツに持つ大林宣彦監督は、意外とここらあたりにヒントを得ていそう。
脇役のみなさんはさすがに総とっかえは難しかったのか、出っ歯の沢田浩二や監守の関山耕司は相変わらずだが、シリーズを追うごとに石橋蓮司の役柄がだんだん大きくなり、今回はついに健さんの脱獄を助ける相棒的な地位に格上げしている。