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気まぐれな唇のemilyのレビュー・感想・評価

気まぐれな唇(2002年製作の映画)
4.1

舞台ではそこそこ名の知れた俳優のギョンスだが、このたび出演した映画の興行成績が悪く、次回作の出演は断られてしまう。先輩の誘いでチュンチョンへ旅にでる。そこでダンサーのミュンスクと出会い軽く誘惑され、そのまま流れるように関係をもってしまうが、先輩も彼女のことが好きらしい。ギクシャクしたままなんとかソウル行きの電車に乗ると、電車の中で運命の女性に出会ってしまう。

小さなエピソードが積み重ねられ、それらのタイトルが緑色の画面で告げられる。この緑色がひときわ異彩を放っており、脳裏に残ってしまう。今作でも人間の目に見えない恋愛感情や男女間の不気味な距離感を、皮肉なタッチで描き、少ない登場人物間でそれらを交えることで、喜劇のような不穏感と生々しさを伴い、人生の不条理をあぶりだしている。

誰かに言われた言葉をまるで自分の言葉のようにさりげなく繰り返したり、男女間の恋愛においても、二人の女性と関係を持つが、その関係性が逆転しし、結局自分のしたことが自分に返ってくる形になる。ミュンスクの積極的な誘惑に答え、関係を持った責任を放置し、逃げるようにかえってしまうギョンス。しかし今度は冷たくあしらわれる電車で知り合ったソニョンに、積極的に愛の言葉を告げ、なんとか手に入れようと懸命に努力するのだ。しかし皮肉にも彼女との間には越えられない壁が大きく立ちはだかってくる。男女が逆ならばそれは利点になるが、この場合は男のプライドを傷づけられ、彼女に近づけば近づくほど、どんどんその距離の大きさを知ることになるのだ。それらは繰り返されるセックスのシーンでも読み取れる。

食事とお酒の席での三角形での会話、それを遮るように交わされるキスや「愛してる」をただ繰り返し、その言葉に頼るしかなくなる男の切なさ。酒とともにある即興性がしっかり意味をもたらし、回転門の由来がエンディングへとつながってく収まりの良さもいい。

電話から始まり、直接話せない言葉や行間にこぼれる本心をヒリヒリとつたっていく。Tシャツの色のコントラストも面白く、特に見送りのシーンの3人のシャツの色、ガラスに映る町の風景、何とも言えない絶妙な距離感の三人の横一列に並んで座った姿は、非常に滑稽で、悲しい。詩的な言葉を余韻のように反復し、文学要素と重ねる。そうして冒頭と同じ雨ですべてが流されていくのだ。それは普遍的に日常で繰り返されている光景であり、男のそうして女の気まぐれな一コマの恋の物語である。そうしてそのような経験がある人なら、少しグザッと痛い気持ちを残してくれるだろう。
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