あなぐらむ

極つぶしのあなぐらむのレビュー・感想・評価

極つぶし(1994年製作の映画)
4.0
90年代邦画アクションの傑作「凶銃ルガーP08」の渡邉武監督が手掛けた幻の?ビデオシネマ。
この度チャンネルNECOで放送があり、30年ぶりぐらいに視聴。
ビデオリリース当初ベータテープにダビングしたのだが、それきり観ていなかった。
なんでダビングに至ったかというと、先の傑作を手掛けた新進の監督である事、原田眞人「タフ」シリーズでも顔を合わせた木村一八と安岡力也のタッグが観られたという事、そしてヒロインが我が愛しの安原麗子サンだだったのが決定的だった。この頃、麗子サン作品はだいたい観てたものね(神野太/石井隆の「ガッデム!」など)。

完全に内容は忘れてたんだが、そういう作りなんだよ。ビデオシネマという注文芸術についての過不足のない仕事。ケイエスエスといえば「ミナミの帝王」シリーズが主力で、これも「ニーズの要望に即した無駄のない作法」というノウハウで今も知られる人気作になったのだ。本作はヒーロー&エクセレントフィルム製作、ケイエスエスのリリースである。

超人的な生命力と人を凶暴にさせる合成麻薬の裏取引に絡む事件に暗躍する巨悪に、凶暴なマルボウ刑事と昔気質の理性派ヤクザのコンビが警察の特命チームとなって対抗する…という筋立ては、女性に置き換えれば篠原とおる原作によくあるパターンである。
「ザ・ハングマン」だと思えばいい。これに女殺し屋の悲恋が絡んで進んでいく。

物語的な起伏はあんま無くて一本調子ではあるんだけど、一八と麗子サンのベッドシーンがあったり(これが後段への伏線になってたりする)、ぼけーっと見てられるのがありがたい。

じゃ何が良いのかというと、渡邉武の乾いた暴力センス(まぁアフター北野武なので)と横浜から晴海ふ頭などのロケーションを使った、タイトでかちっとした構図、望遠レンズの効果的な使用による画の奥行の造形、それらが時代のひとつの証言として、洗練された強さを持っているのだ。東映Vシネマのような銃へのフェティッシュは無いが、麗子サンがライフルを組み立てる際のキレのいい編集、クライマックスのアクションでの重機やヘリの効果的な使用法、何もかも熟練の仕事かのような無駄の無さなのである(前のカットが次のカットを呼び込む、という感じ)。

渡辺哲、鹿内孝、南原宏治と脇も豪華で、派手な爆破シーン&血しぶきドバッ、な弾着シーンも最後に用意されて、レンタル代の元は十分に取れるという仕上りである。東映Vシネマの本流だったはずの硬質で都会派のアクション路線が、ここに転生していると言ってもいい。ウェットな所がまるでない映画なのだ。

渡邉武監督名義では、先の「凶銃ルガーP08」は一応劇場公開された作品ではあるが(ちゃんと劇場で観ました)、極端に作品が少なく、この人も邦画アクションのミッシング・リンクの一人と言っていいだろう。機会があれば、気合は入れずに観てください。ビデオシネマなんで。
あ、小林克也が二人の上司役で出演しているのも面白い。この原作、竹内力が後にリメイクしている。