りっく

エスパー魔美 星空のダンシングドールのりっくのレビュー・感想・評価

4.2
上りのエスカレーターに乗る足元を映す画ではじまるところで、原恵一ファンとしては『クレしん オトナ帝国の逆襲』と全くの同一ショットだと心躍らせてしまうが、子供向け劇場中編のなかに、原恵一ならではの悪役や弱者を決して切り捨てない優しさや、人生の悲哀や機微を少々のノスタルジーやセンチメンタルを加えて描き切る手腕がこの当時から光っている。

序盤・中盤・終盤と童話の人形劇が本作の重要なポイントとなっており、まるで魔法がかかったかのように人形に命を吹き込むことで、まずは麻美自身の心が動かされ、その心が動かされた体験=フィクションの可能性を信じて、今度は目の前の他者を救済してあげようとする展開が泣ける。

童話における悪役は決して悪ではなく、教訓や道徳的な気づきを与えるために役を演じている。またそれを芝居として見せる人形劇という形式も、人形は命を吹き込ませてくれる人間がいないと成立しない。そんな人間と人形の関係、もっと広げれば生きとし生けるものの関係をまるごと肯定するかのような素晴らしき讃歌だ。
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