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最後の切札のotomisanのレビュー・感想・評価

最後の切札(1960年製作の映画)
4.1
 戦災の余燼を微かに感じる。というと大げさかもしれないが、佐田啓二の裏稼業崖っぷち。やっと引き当てた大きなヤマで敵と刺し違えて、と言うとこれも思い入れが深すぎ。しかし...
1925年 東京神田の裕福な商家に生まれる。兄弟無し
1945年 空襲で家族家産を失い、工業専門学校を中退
1947年 宮口精二の強請り屋に入門
1950年 旧知のジェリーとつるみ出す
1956年 巣鴨にことぶき屋開業
何となく年譜を勝手に作りたくなるのがこの映画の良い証しだ。
何が良いかというと、うわべ佐田が「香港で盛大に...」などと噂を残して消えてしまう結末で、行き詰まり間近の一匹狼にふさわしい。もっとも、直に噂は吹っ飛ぶ事になって...
1964年 晃が朝雄を殺害し逮捕。佐田殺しも自白
1968年 民自党政権、宗教疑獄等で総辞職
1980年 向坂苑子「たんぽぽのうた」上梓
1984年 「たんぽぽ」つくし合唱隊に献呈
1990年 ドラマ「戦後秘史 宗教疑獄への日々」放送
と勝手に話をひっぱりたくなる。それは女衒、強請り屋で死んだ佐田の人間の下地を蘇らせる事であり、佐田が死んでやっと始まる事だからである。
 佐田への関心は同時に佐田の生きた時代への関心と結びついている。同じ感想を持つ者として、「たんぽぽ」を託された苑子が挙げられるだろう。苑子だけが分かる佐田の心の扉をくぐり、その裏道人生のおおもとを訪ねる日々がやってくるのだと思った。
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