Hiro

灼熱の魂のHiroのレビュー・感想・評価

灼熱の魂(2010年製作の映画)
4.4
「灼熱の魂」
この作品を前にして何を言えばいいのだろう。言葉では足りない。足りないのだけど、何かを言わなくては、考えなくてはと思う。でもそれ以上に打ちのめされてしまう。途轍もない作品でした。

母が残した遺言。その謎を解くために、母の人生を紐解いていく双子。構成はミステリーのようでもあり、ドキュメンタリーのようでもあり。過去と現在を行き来するのに、全く混乱しないのは脚本が素晴らしいからかも。

レバノンの内戦。その中で数えきれない人が巻き込まれ、自分ではどうしようもない大きなものに傷付けられて。この作品のメインではないけれど、母親が故郷の村に戻る時の、あのバスのシーン。ずっと焼きついて離れない。ニュースや新聞に載る死者が、どういう風に死んでいったかなんて、少しでも気にしたことがあっただろうか。そういう、数字では絶対に見えないものが、あのシーンには詰まっていた。

母親の決断は賛否が分かれるものでしょう。双子からすれば、知りたくもなかった事実かもしれない。墓場まで黙って持っていって欲しかったかもしれない。
でも彼女はそうしなかった。ずっと探し続けていた人を、一度しか抱きしめることのできなかった人を、憎み切ることは出来なかったんだろう。

愛と呼ぶには禍々しく、憎悪と呼ぶには憎しみが足りず、彼女が彼に抱いていた思いはなんだったのだろうと鑑賞後からずっと考えている。彼女は全部ひっくるめて、彼のことを赦したのかな。

ドアに・ヴィルヌーヴ監督二作品目でしたが、想像以上の傑作でした。映画に打ちのめされたのは久々だ…。
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