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女はそれを待っているのRのレビュー・感想・評価

女はそれを待っている(1958年製作の映画)
4.3
たまには自分の見たい映画を、と思って選んで見てみました。やっぱベルイマンの映画は強烈! 冒頭、夜遅くに産婦人科に救急で運び込まれた女セシリアは、不安をむき出しにして、本当にこの子がほしいの? と夫に問いかける。痛みと出血に悶え苦しむセシリアは、その深夜、流産し、掻爬手術が行われる。病室で苦痛にうめき、のたうち回るセシリアは、看護師に、夫は子を望んでいないし、私はひとりで育てるには弱すぎる、夫は私を愛していない、と恐ろしい形相で叫び続ける。最初からどんだけ重い映画やねん……相変わらずイングリッドチューリン、演技の迫力すご過ぎて怖い🥶 すごい女優です。セシリアの置かれた病室には、スティーナとヨーディスという二人の妊婦がいる。流産した人も他の妊婦と同じ病室に入れるんすね…これはキツイ…(今はこんなことしないよね?) まだ若きヨーディスは望まぬ妊娠をしてしまい、相手の男は、面会に来てとお願いしても迷惑そうにして来てくれない。一方、スティーナは面会に来たラブラブの夫とふたり、子の誕生を心待ちにしている。この三人の女たちが、この後どのように変化していくかが、いかにもベルイマンらしいクリニカルさをもって描かれていく。同時に、三人と看護師との間の人間くさいやりとりなんかもあり、そのコントラストが面白いんやけど、てか、そもそも映画のテーマ自体がとても興味深いですよね。まず、三人の女をメインに、彼女らの妊娠の三者三様を描いてるだなんて、テーマの中心にここまで妊娠や流産がどかんと置かれてる映画なんて他にありますか? しかも、この映画、女性が見たら相当ホラーなんじゃないか、と思うシーンがひとつある。男性のボクが見ても全身の血が凍って鳥肌総立ちになる怖さなので、女の人が見たらどう感じるのか……気になるのでみなさん見てください。そのシーンも演技が凄い。震える舌というめちゃくちゃ怖い日本映画がありまして、それが苦手な人は、ひょっとしたらそれ以上に精神に来ると思う。女同士って、男同士よりも純粋な信頼関係ができにくいイメージあるんやけど、終盤では必ずしもそうでないかもしれない可能性が垣間見れるのイイですね。ボクは個人的には、今の日本社会に最も必要であるもののひとつとして、女同士の深い信頼関係ということが常に頭にあるので、そういう関係が有り得るのを感じさせるものには、兎角感動を覚えます。ただ、永続性がめちゃめちゃ大事なので、もろさは感じざるを得ないところがありますけど。それにしても、スウェーデンのナンパなおじさんイングマールベルイマンが、生物としての女の内部に、これほど迫っていった映画を作ってるってやっぱすごいなーと思いました。男が見たらどうしても、完全には入り難く、分かり難いところありますので、子を持つ女の人に本作がどういう風に見えるのか、また、中絶、流産、死産などを経験したことのある人にどう見えるのか、子を持たない、持てない人たちにどう映るのか、妊婦にはどうか、もちろんひとりひとりすべて異なった体験だと思いますが、みなさんに本作がどう感じられるのか、非常に気になるところ。是非見てみてください。
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