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TATTOO「刺青」ありのTogusaのレビュー・感想・評価

TATTOO「刺青」あり(1982年製作の映画)
4.2
映画にとって、観客を物語に誘い込むのに導入部が肝心だ。
物語によっては、ジワジワ、観客を物語に没入させる物語もあるだろう。
この映画の冒頭シーンの導入部は完璧だ。
内田裕也の何とも言えないカッコイイ歌を爆音で鳴らしながら、主人公宇崎竜童演じる竹田明夫の死体が警察病院の廊下をベッドに寝かせられながら、検死室へ運ばれる。
カット!
検死室。検屍官が、多分(^_^)、「TATOOあり。」と静かに放つ。
これは、映画と言えば、ほとんど誰もいないような映画館で暗い男子学生が観ていた時代の男のドラマである。
安っぽいパッケージ写真に騙されず、犯罪映画が好きな人は、絶対、観るべきである。
高橋伴明監督は、観客にも解る形で、息子を溺愛する母親に育てられた、はすっぱ者が、「30までに、俺はでかいことしてやる。」を口癖に、当時の日本社会を震撼させた事件を起こす過程が上手く描かれている。
冒頭の「えらいことしてくれよった。」と駆けつけた警官を、「パーマ、当ててきてん。」という肝の据わった竹田明夫の母・渡辺美佐子の演出もよかった。
でかい口を聞きながら、何ら大したことをしない竹田明夫に、竹田の焦燥感を弄ぶように、鳴海の話題を出す西岡琢也の脚本もわさびが利いていた。
が、何と言っても、ドラマは、竹田明夫とその母親だろう。
何故、じんと来たのか、ほとんど忘れてしまったが、里帰りする竹田明夫が、見栄張りらしく、豪勢な土産を持参し、母が駅のホームで待っているシーンだったか、とにかく、中盤の駅のシーンでじんと来た。
昔の日本人男性なら、ラストの母の手紙にウルウル来ない者は居ないだろう。
そして、僕は、この映画に取り憑かれた。
「30歳までに、俺もでかいことをしてやる。」
そんな気持ちで、30半ばまで焦っていた。
勿論、僕の場合のでかいこととは犯罪なんかであり得ず、科学的大発見であったが。
僕達は、決して自分が犯罪者に成ろうと思って、犯罪映画を観るわけじゃない。
世の中全ての人の境遇が恵まれて入る訳ではない。
また、その人の全人生の中で、いつもいつも恵まれている訳ではない。
自分で、自分が何故、犯罪映画を観てたのか、正確に分析出来る訳ではないが、自分の恵まれない環境から、犯罪映画に感情移入して、マイノリティーから見たメジャーへの、一種のカタルシスを感じようとしていたのかも知れない。
決して、犯罪者を擁護しようとして観てた訳ではない。
その辺りを今の人にも解ってもらいたい。
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