Stroszek

1984のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

1984(1984年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

原作にない点を、映画ならではの手法を用いていろいろと加えた良質な翻案。テレスクリーンから転向者の告白が延々と流れているのは原作にはない。ビッグ・ブラザーのテーマ曲も素晴らしい。

110分のランタイムのうち、後半に30分ほどウィンストンが拷問を受ける描写がある。原作第三部はほぼ拷問と党の真意の説明に費やされているので、正確な時間配分だ。

Windows PCのトップ画面みたいな田園風景がウィンストンの「黄金の国」として何度も出てくる。原作は田園生活(pastoral life)を理想郷(Utopia)として描いたイギリス文学の伝統に連なるディストピア小説だが、「黄金の国」がこういう風に描写されるとは思わなかった(原作の「黄金の国」はもっと小川の流れる森の中にあるイメージで、あんなに開けた草原の丘ではないと思う)。

少しがっかりしたのは、思想警察の一員と判明したチャリントン氏が、ウィンストンよりも若い姿で再登場しないことだ。老人のままである。原作では彼の存在が思想警察の若きエリート層を体現することになってるのに。

友愛省内部もあれほど薄汚れたセットだとは思わなかった。原作で党は完璧に空調を効かせて季節感や場所の空間・時間感覚を受刑者から奪うが、映画の拷問施設はあまり手入れをされている風には見えない。

最後、栗の木カフェにウィンストンがジュリアを呼び出すのは原作とは違った設定だ(原作では街中で遭遇し、立ち話をする程度)。

ウィンストン役ジョン・ハートは痩躯で、ガタイがよかった56年版のエドモンド・オブライエンよりも適役である。知的で神経質なウィンストンの様子をよく表現していた。

ロジャー・ディーキンスの撮影が光る。
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