A8

HANA-BIのA8のレビュー・感想・評価

HANA-BI(1997年製作の映画)
3.7
愛というモノは不器用だろうが伝わることがすべてなのだろう。それは、儚くとも美しい。

まず、これほど唯一無二の決して他の誰にも創られないであろう世界観に感銘を受けたと同時に北野武の才能に興奮を感じた。

贖罪と愛を究極的に表しているような作品であるという印象。これだ!これを表しているんだろう、なんてことを表現するのは烏滸がましくこの作品を観てダイレクトに伝わってきたのは、説明なくともセリフがなくとも伝わる主人公の存在感と彼の揺らがない軸、そして奥さんに対しての愛情である。サングラスをかけ容赦なく暴力を振るう彼と対象的にみせる奥さんの前での優しさは、うまくコントラストを描いたように彼の心の奥底にある優しさを描いていた。

暴力の世界観は、かっこいい、、や憧れなど偏りのある印象に垂れ流しまるで、正当化するようなモノが多いが、この作品は、暴力、冷徹さ、そして暴力が続くのだがその先もしかと描かれており、失うという冷の部分もしっかり描かれていた。暴力という表現をする責任というのだろうか、、それがうまく最後の終着点として行き着いたようだった。

ヌーンとした傍若な展開が、これほど人間味のある世界観として描けるのはまるで魔法のようである。セリフもほぼなければ説明もない。だが、その代わり一コマ一コマがどんなセリフよりも、どんな説明よりも重く強くのしかかり、重厚な作品へと持っていった。

セリフや演技じゃない、、大事なのは明確な目的、軸を持った世界観。それはおそれ知らずの西さんのように畏れ知らずの唯一無二の作品として評価させるのだろう。

北野武の演技はうまいとかそういうレベルじゃない、、彼の演技はどんなうまい役者にも真似はできない。彼だけの世界観が彼の演じるキャラクターに憑依し、唯一無二の西という存在を作り上げたのだ。彼は映画の作品の中で北野武でもなく西という存在として確かに生きたのである。

奥さんへの愛情、殉職した刑事への想い、怪我した相棒への思いそれらがだんだんと作品を観続けるごとにじわじわと伝わってきた。冷徹な彼のうちに秘める性格がこのように伝わってきて{人と知り合う時は表明しかわからない、彼はもしくは、彼女はこういう人間なのだろうなぁと、しかし、触れ合っていくうちにこんなところもあるんだ、見かけによらず優しいな、愛情深いなと、、そうして愛着が生まれ人間味を知り、特別な存在となっていくのだろう。彼も表面的に冷徹で怖い存在なのだろうと最初は思った。だが、彼の部下を思う気持ち、奥さんへの愛情がわかるにつれて私たちの感情というモノは不思議なことにこの作品に気を許し愛着そしてリアルを覚えるのである。決めつけや、これだ!という結果を描くモノがないからこれほどそのリアルな生き物のような作品が出来上がるのだろうか。

欲を言えばこの世界観をもっと説明のつかない日常的なシーンからもっと細かな場面までもっともっと長く観ていたかった。3時間、4時間でも。

不器用ながらもしっかり軸としてある愛情。愛よりも恐ろしく美しいモノはない。それは死よりも重要なのだと。
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