アードベッグ

タカダワタル的のアードベッグのレビュー・感想・評価

タカダワタル的(2003年製作の映画)
5.0
故高田渡さんを知ったのは、当時大ファンだった劇団カクスコの劇中歌で聴いたのがキッカケであった。

コーヒーブルース。
高田渡さんの曲はどれもが短くて、そよ風のようにスルリと抜けていってしまう。

この曲も2分くらいだったかな。

歌詞のなかに、「三条に行かなくちゃ〜三条堺町のイノダっていうコーヒー屋へね」という情報だけを頼りに、クリスマス近い12月に京都へ行き、当時はスマホではなかったので、寒い中歩き廻り、ようやく辿り着いたときに飲んだコーヒーは格別に美味しく、身体中に染み渡った記憶は今でも鮮明に思い出せる。

恰幅のよい60代近いマスターに、高田渡さんに憧れて来ましたと挨拶をすると、そんなことよりせっかくクリスマスなんだし、綺麗なイルミネーションを見に行きなよと提案された。

少し不安になりながらも、ふたたび寒い京都の市街を歩くと、案内されたそこは一般家庭のお庭で、イルミネーションが飾られていた。
レンガ造りの家で、見上げるほどのモミの木や、ワイヤーフレーム製のトナカイが点在し、ライトアップされたら個人宅の規模とはいえ、それは素晴らしいのだろうが、なにせ昼過ぎくらいだったので残念ながら拝めず、あとで見たらよくわからない構図でパチリと1枚、写真を撮って駅へと向かった。

東京へ戻り、どうせだったら高田渡さんを満喫しようとのことで、東京駅からそのまま吉祥寺駅に行き、有名老舗居酒屋「いせや総本店」で立ち呑みと相成った。
ここは高田さんがこよなく愛するお店で、昼過ぎくらいにはほぼ毎日と言っていいほど立ち寄っていたそうだ。

それから程なくして、キッカケとなった劇団カクスコが2002年に解散。
理由として、劇団員の家庭の事情で、最後までお互いのメンバーを思いやっての解散だったと聞いている。
その頃のカクスコはかの有名な新宿シアタートップスでも人気で、TBS深夜番組「劇場中継」で放送され、チケットはプレミアとなってしまい、必死になって予約をしていた。

その2年後の2004年、高田渡さんが映画になる情報をキャッチし、しかもテアトル新宿にて本人ミニライブもあるとのことで、これまた必死に予約をして獲得できた。
場内は満席で立ち見が出るほどで、今のシネコンしか体験したことないお客さんは是非一度、あの熱気を味わってもらいたいと思う。
私も、もれなく立ち見となり、スクリーンから見て右側の階段に何とか陣取って鑑賞していたのだが、私の真後ろに座る男性客の笑い声が、素人とは思えないような深みのある、そして聞き慣れた声だと思い、振り返ってみると、なんとそこには柄本明さんがいらっしゃった。
くしゃっと素敵な笑顔で、優しい眼差しだったなぁ。

それから数年後、カクスコの解散と同時に足が遠のいた新宿シアタートップスが閉館となった。
古田新太さん、筧利夫さん所属の劇団☆新感線や、松尾スズキさん主宰で宮藤官九郎さん、阿部サダヲさん所属の大人計画、三谷幸喜さん主宰で西村雅彦さん、梶原善さん所属の東京サンシャインボーイズを輩出しており、惜しまれつつも2009年に閉館。

この映画は、20歳から新宿に居を構え、ちょうど2000年から2010年と遊び歩いていた時代にあった出来事と重なり、一般的なレビューはできない作品である。

超個人的な思いもあって★5とさせていただく。

最後に、一曲紹介したい。
「酒心」
酒飲み族の悲喜こもごもが、たった一分半で歌われており、今夜、もし良ければグラスを片手にご清聴くださいませ。