よつゆ

上意討ち 拝領妻始末のよつゆのレビュー・感想・評価

上意討ち 拝領妻始末(1967年製作の映画)
4.5
何かに従って生きてきた人間が、一つのきっかけで180度逆の決断をする。
完全な縦社会、そして忠誠なしもべであることを求められる武家社会に於いて、それがかなり顕著とも思える馬廻役。
しかも主人公の笹原伊三郎は話を聞くに入り婿の身。
これほど迄に社会の奴隷とも思える主人公が、同僚は疎か、自らが忠誠を誓ってきた藩を相手にその刀を振るうこととなる。
それでなるほど「上意討ち」。
これは英雄譚ではなかったわけであり、寧ろ藩からすれば悪党落ちである。

しかし、下衆な上に頭を垂れ続け、自らの意思とは相反する行動をとることは正義なのであろうか。
愛し合い子供まで設けた息子夫婦のために、これまでの自らの歩んできた道とは違う道を切り開こうとした伊三郎。
あまりにも無慈悲無情な武家社会。

笹原伊三郎演ずる三船敏郎は相変わらず最強だが、本作はそこまで殺陣もなく、ドラマ性が重視され実に濃密な内容となっている。
同僚であり気心の知れた浅野帯刀(仲代達矢)との一騎打ち、そして終盤の引きで見せる伊三郎の死にゆく様は圧巻。

流石は小林正樹監督、橋本忍の脚本、武満徹の音楽、そして、切腹などとは違うが素晴らしい画を見せつけた撮影の山田一夫(とはいえ見たことないけど無法松の一生等も撮っている素晴らしいキャリアを持つ方だが)。
素晴らしいスタッフ、そしてキャストにより生まれた作品だ。
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