囚人13号

残菊物語の囚人13号のレビュー・感想・評価

残菊物語(1939年製作の映画)
5.0
歌舞伎界という厳格な男社会で大根役者(菊之助)を支える乳母=身分の低い女性の立場の弱さが克明に描かれているのだが、自我を押し殺して男に尽くし試練に耐える一途な姿、柔らかい物腰の中に潜む強い信念に泣く。しかしこれは二世役者の波乱万丈譚であると同時に男が最愛の女性を失ってから初めて、これからは一家という大きな組織に属して貢献していかねばならならぬと学ぶ妥協の物語でもある。

凄まじいのはワンシーン・ワンカット精神がクライマックスでは意図的に排されていることで、緊張と感激が最高潮に高まったその瞬間、舞台上の菊之助の姿と祈るお徳/福助との切り返しが起こるため(舞台を正面から捉えた)無機質な半ドキュメントとは無縁な、本編中最も映画的な瞬間に収まっているのだ。この溝口的な解体の美学はオープニング・ナイトのカサヴェテス、書かれた顔のシュミットへ継承されていくだろう。
クライマックスの「連獅子」で菊之助たちが披露する毛振りは2年前に小津が海外向けに撮った記録映画『鏡獅子』と酷似していて何か感慨深い。
囚人13号

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