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スタンド・バイ・ミーのぴろのレビュー・感想・評価

スタンド・バイ・ミー(1986年製作の映画)
5.0
【終わりゆく夏、来たる秋】

 夏は青春の季節である。青い空を背景に、もくもくとその陰影を際立たせながら摩天楼のようにそびえ立つ入道雲を見る。するといつでも気分は子供の頃のようで、何かが起きそうなワクワクとした心持ちになるものだ。しかしその夏ももう、終わろうとしている。

 今年の夏も楽しかったな。
 先日、大学生活4年間の大部分を捧げてきた、とある体育会系部活を引退した。チームが長年掲げてきた悲願を達成しての幕引きで、一生の思い出に残る瞬間だった。長く辛い部活生活だったが、そばで支えてくれた仲間たちのおかげで乗り越えてこられた。あの日々はまさに、青春だった。
 それから1週間。私は今日、家のソファに体を深く沈め、この映画を観て、秋の気配を感じていた。

 少年たちの一夏の大冒険を描いているスタンドバイミーだが、実は本質的には夏の物語ではない。「青春の夏」が過ぎ去った後、つまり「秋」の物語だ。それは、原作がキングの中編作品集『恐怖の四季』にて、秋の物語として収録されていることからも実は読み取れる。
 この作品が多くの人々の共感を呼び、不朽の名作とされる所以は、輝かしい青春時代の「終わり」を残酷なまでにしっかりと描いている点にある。永遠と思われた楽しい冒険も、夏休みも、友情も、いつかは必ず終わる。過ぎ去った時間、失ったものは二度と戻ってこない。大人になるということは、そういう過去を積み重ね、背負っていくということなのかもしれない。

 ベン・E・キングの「stand by me」と共にエンドロールが流れていく。窓から湿気のない爽やかな風が吹き込み、遠くで枯れ草を焼いている臭いが微かにする。高く薄い秋空を眺めていると、夏が、青春が、そして人生が、駆け足で去っていくのが見えるようで、ひどく寂しくなる。
 しかし同時に、私はこの季節が好きだ。もう二度と戻れない"あの頃"を想いながら、少し肌寒いが心地よいこの虚無感に浸っていたい。だから私はスタンドバイミーが好きで、何度も見返してしまうのだ。ノスタルジアとは一種の麻薬だ。これは、人に話しても共感してもらえることが少ない。


【メモ】
○受賞
・第59回アカデミー賞 脚色賞
・第44回ゴールデングローブ賞 作品賞、監督賞

○ "I never had any friends later on like the ones I had when I was twelve.
Jesus, does anyone.."
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