りょう

ダンサー・イン・ザ・ダークのりょうのレビュー・感想・評価

4.4
 ラース・フォン・トリアー監督は、1996年の「奇跡の海」で世界的に有名になって、ビョークというポップスターを起用したミュージカルがカンヌでパルム・ドールと女優賞となれば、当時の日本でもかなり話題になりました。
 ただ、あのころはミュージカルにアレルギーがあったし、ビョークのような音楽は聴くこともなかったので、あまりピンときませんでした。主人公が酷いことになるという以外は…。いまでは“鬱映画”の代表格でもあります。
 20年以上ぶりに観ましたが、ビョークが妙に可愛くて、すぐに感情移入してしまいました。後半からとんでもない展開になることがわかっているし、序盤から失明しかかっているし、なぜかドキドキしっぱなしです。隣人のビルの魔がさしたような悪行がきっかけで、彼女の人生が急降下してしまいますが、周囲のみんなは親切なひとたちばかりなのに、どうにかならなかったものか…。ラース・フォン・トリアー監督がそんなハッピーな脚本にするはずはありません。
 まったく共通するところがありませんが、なぜか森井勇佑監督の「こちらあみ子」をイメージしました。セルマには視覚障害だけでなく、少し発達障害のような症状があったのかもしれません。こんなピュアなキャラクターなのに、なぜか“生きづらさ”を感じさせます。息子のことを大切にしているのに、うまく愛せていないところもありました。
 物語そのものが辛辣なほど、セルマの空想で描かれるミュージカルシーンで救われます。工場や貨物列車の金属音をリズムにするセンスもなかなかいいです。ほぼビョークのアルバムのように構成されたサントラは必聴です。
 2024年1月25日は、京都アニメーション放火殺人事件の京都地方裁判所の判決がありました。この作品を観たのが無意識なのか偶然だったのかわかりませんが、終盤の死刑執行に至るシーンも強烈です。当時のアメリカは絞首刑ですが、受刑者にも数日前に告知され、ちゃんと立会人がいるだけマシかもしれません。日本の死刑執行は、まったく密室で不透明な実態があります。前近代的で国家による殺人を許容している先進国(自称)は日本だけです。
りょう

りょう