100年前の映画ということで古さは否めないが、それでも冒頭の死神が出現する場面をはじめフリッツ・ラング監督によるセンスのある演出が随所で光り、ラングとドイツ時代コンビを組んで活躍してきたテア・フォン・ハルボウのファンタスティックでオカルティックな作風のなかに愛の崇高さを謳った重厚な脚本も相まって傑作に。
人の死を見続けた結果厭世的な性格となってしまった死神のキャラクターもナイスで、寿命が尽きて死神に奪われた恋人の魂を取り戻そうとする女性のドラマに深みをもたらす。
主人公が魂を取り戻す条件として突きつけられた三つの時代の男女の恋を成就させるというミッションも、それぞれの時代を膨大なセットとエキストラで再現しており見ごたえ充分。ただ最後の時代の中国パートはややコメディタッチだしヨーロッパ人が中国人を演じているので違和感があるものの、それでも巻物が意思を持つように動いたり小人の兵士がたくさん足元から湧き出たりする魔術の映像は面白いし恋人たちの顛末も心に沁みるものがたり捨てがたい魅力がある。
そしてラスト、愛している恋人を助けるという使命を捨ててまである命を助ける主人公の自己犠牲の精神にやられる。それに感銘を受けたかのような死神の配慮も奥深い余韻を残していく。
ルイス・ブニュエルが本作を鑑賞したことが映画界に入るきっかけになったという凄いエピソードが有名、そのほかにも死神の描写などイングマール・ベルイマンや手塚治虫もかなりの影響を受けているのではなかろうかと推測する。