しあつん

波の塔のしあつんのレビュー・感想・評価

波の塔(1960年製作の映画)
4.0
映画を観ていると自分が口出ししたくなることがあるが、今回は黙って俯瞰できる優越感に浸れた。「同一人物だと知ってるのは私だけ」という体験ができる。

容疑者を取り調べる検事の愛人が、容疑者の正妻。山梨に温泉旅行へ行って不倫するシーンは男と女の関係性。そのときと、検事と容疑者の愛人という関係性のときの、お互いの振る舞い方の差異が面白くて堪らない。容疑者の結城も、人によって態度を変えすぎであるし、とりわけ召使いに対してはかなり温厚篤実な人物を演じている。

ただ、セリフが説明臭いのと、役者のセリフが棒読みなのが多かった気がする。あとは宿の主がお客様の情事にそんなに関心を持つのだろうか…

それでも、小野木の「僕が検事になったのは、六法が全てと思いたくて、この世の悪に立ち向かいたかったからだ。けれども人間は複雑だった」というセリフに心揺さぶられてしまった。それゆえ、彼は争いの無い古代人の生活に魅せられ遺跡を巡る。

正義感が強すぎるとそれに対する絶望感も大きなものになるので、何事も期待しないのがいい。
という一方で、有馬稲子さん演じる頼子とその夫の結城も、お互いの夫婦生活に不満を持っていたけれども、想いを言葉に出さなかったから破滅に向かったのかもしれない。まだ2人は関係を建て直せたのではないか、でないと結城がわざわざ不倫をした宿までつきとめた理由が判然としない。そこは、期待や希望を持って良かったのかもしれない。

有馬稲子さんの、序盤の可憐な姿から、破滅と絶望へと向かう表情の変化に注目ですね。
そして、岸田今日子さんが何もしていないのに居るだけで怖い。笑
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