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バグダッド・カフェ<ニュー・ディレクターズ・カット版>のYOKのレビュー・感想・評価

4.0
あまりにも有名なタイトルなのに観たことが無い…そういう作品って沢山あると思うんだけど、今作も私にとってそのうちの1本。ついに、ついにです。ニューだかなんだか知らんけど、番組表に〈ディレクターズカット〉ってあるから、多分これであってるはず。

内容もあらすじも知らなかった時は「バグダッド(イラクの首都)にあるカフェの話かぁ…なんか荒れてそうやな」なんて馬鹿日本代表みたいな事考えてた。

実際は「アメリカの砂漠地帯にあるダイナーでガソスタでモーテルという多機能な〈バグダッド・カフェ〉でドイツ人女性との交流を描いたファンタジー映画」とのこと。イラクのバグダッド関係ねえじゃんな。

映画の序盤、出てくる女性みんなブチ切れてる。みんなと言ってもカフェの女主人と主人公であるドイツ人女性のふたりなんだけどね。

主人公のドイツ人女性(ジャスミン)が現れる時に流れる曲が何故か幻想的で素敵だし、どの登場人物よりもきっちり着込んでいて威風堂々としているのが格好いい。

割とずっと、イラついて喚き散らす女主人とその他の人々って感じが続くんだけど、それでもなんか見れちゃう謎の魅力があった。独特な色使い、カットの割り方、目を引くライティング、小気味の良い音楽、主張強めな小物や建物、ツッコミどころ多めな登場人物達…なんか全部が上手く噛み合ってないようで噛み合ってて凄い。

ジャスミンの人柄と性格によって、それまで殺伐としていたバグダッド・カフェとそれに関わる人々が柔和になっていくの、とても良い展開なんだけど、なぜだか女主人のイライラが無くなり怒鳴らなくなると途端にメリハリがなくなりどことなく退屈になってしまった。

ジャスミンによるマジックのシーンに時間を取りすぎているようにも感じつつ、賑やかなマジックシーンと、ジャスミンとバグダッド・カフェの別れのシーンで静と動を示したかったんだろうな。ってか、客マジック好きな。

番組の概要欄に「ミニシアターブームの火付け役」ってあったけど、確かにこの作品をミニシアターのあの空気感で見たらめっちゃハマりそうな気がする。なんか雰囲気あってるよね。

登場人物らと同じく観ている側もバグダッド・カフェの世界観につかれないと「なんだか退屈」ってなってしまうのかも。最後にバグダッド・カフェを出ていく女性もまたひとつの正解というか、そりゃあみんながみんなこの世界観に浸れるわけないよなぁって思わせてくれた。

バグダッド・カフェみたいな世界で楽しく生きていけるっていいなぁと思いつつ、ナンダコリャ?ってと思ってる自分もいた。

なんかちょっと皮肉効いてる映画よね。
マジックもそうだけど何も考えず見ている分には楽しいけど、その実裏では種も仕掛けもあって大切なことからは目を逸らしてる…的な。んー考えすぎか?

にしても女主人の変わりようがすげえ。最初のイライラっぷりと、ラストのノリノリで歌って踊ってマジックを披露するギャップがほかにないくらい強めだった。度肝抜かれたわー。

大きな盛り上がりもないし、あらすじだけ追うと斬新さもないんだけど、それをゆうに超えてくる映像美と音楽と独特の世界観が確かにあった。こりゃあ確かに熱狂的な指示を受ける作品だわ、って謎の納得が走る感じな。不思議。

個人的には好きな作品。ふとした時に思い出して観たくなりそうな、そんな感じの映画。テーマソングが好きすぎる。
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