のわ

U23Dののわのレビュー・感想・評価

U23D(2007年製作の映画)
2.6
【 あえて問題点を。】

U2ファンにとっては抜群の出来だろうし、 ライヴを3D映像で表現するという点においても実に優れた作品に仕上がっている。
だが、それ故の問題点を提起してみたい。

「映画」とは作品としての完成形を提示するものであり、 観客には完全な受け身としての鑑賞を要求する。 だが一方、「ライヴ」というものはアーティストのパフォーマンスだけでなく、 観客が参加する事で生まれる一体感、それによって空間が構築される事で始めて完成する。

では本作はどちらに当たるのか。

文字通り目の前で繰り広げられるパフォーマンス、そこへ参加しようとする客もいれば、 あくまで「作品」として眺める客もいる。 僕は映像作品としての完成度を見たかったので後者に当たるが、 隣に座っていた女性客は明らかに前者で前のめりになって声を挙げていた。 僕にとって彼女は立体的に広がる映像と音響に正に実像として混ざってくる迷惑な存在だったが、 彼女にしてみれば僕はさぞかしノリの悪いつまらない奴に見えた事だろう。 互いに立ち位置が掴めない居心地の悪さ。
映像作品とライヴ(リアル)の狭間で成立しているが故に生じる観客の捉らえ方の振れ幅の拡大。

恐らく本作の制作意図としては「まるでライヴ会場にいるように体感してもらう」が始まりであろうから、 きっと映像の中に映る客たちのように熱狂的に盛り上がる事が作り手の要望であろう。
ならば始めにメッセージが必要だったのではないだろうか。 メンバーが一言、こちらの客に向かって観賞方法を(「一緒に盛り上がってくれ」的な言葉で) 示唆するだけで客同士のわだかまりは解けたのではないだろうか。 そうすれば僕のような客も納得がいった。
または、極端な話だがオールスタンディングで盛り上がり優先の形態と 座ってじっくり作品を満喫する映画としての形態に 完全に箱を二分して住み分けをはかるべきだったのではないだろうか。

3D映画はまだまだ模索を要する未開のジャンルであり、様々な可能性を秘めている。 少なくとも、それを信じるに至らしめるだけのクオリティが本作には垣間見られた。
終盤に繰り広げられるテロップのシャワー、会場モニターとの三次元的な融合は実に美しかった。

だが、だからこそ、ライヴ映画ばかりが蔓延する事には一抹の不安を覚える。

個人的にはグリーナウェイが『プロスペローの本』のような作品を、 またはジュネが『アメリ』のような作品をこういう技術を駆使して仕上げてみてくれないかと思う。 3Dが体感でなく表現、鑑賞を売りにする生き残り方も模索していかなければ、 物珍しさの先に廃れていくだけだろう。

本作は字幕が無い故にU2の曲を全く知らないまま観るには正直ツライ作品だが、 3D映画の未来を考える上で非常に優れた作品であり、 ファンがただ賞賛しているだけの映画ではない、という事を強く訴えたい。

一応、断っておきますが、僕はU2というバンドを敬愛しています。 それと同時に、映像表現全般に真摯でいたいだけです。
 
 
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