イルーナ

ある街角の物語のイルーナのレビュー・感想・評価

ある街角の物語(1962年製作の映画)
4.2
【記念すべき虫プロ第一作】

どこにでもあるような街角に交錯する群像劇。
そこでは、人間やネズミ、蛾、街路樹といった生物はもちろん、熊のぬいぐるみやポスターに街灯といった無機物、それぞれの“生”が描かれる。

女の子が風船に気を取られて窓からぬいぐるみを落とした時、黒一色の目が一瞬カッと見開く演出。
ぬいぐるみと離れ離れになっても、女の子はせめて飢えないようにと飴玉を差し入れる。
うんともすんとも言わないぬいぐるみが気になってしょうがないネズミのカンク坊や。
手にした飴玉をぬいぐるみの手元に置いてから食べるのは、子供が人形にものを食べさせるような仕草で妙にリアル。
老いた街灯の光を消そうとする蛾、種を何度踏みつぶされようと播き続けるプラタナス。
プラタナスは蜘蛛の巣にかかった蛾を助けるのと引き換えに種を播かせようとするが、結局蛾はそれを反故にする。
これだけでも群像劇として面白いのですが、ポスターたちのリアクションが面白くて見入ってしまう。

新入りのピアニストのポスターに嫉妬しながらも踊るのをやめられない酒場女のポスター。
水夫のポスターはお腹に描かれた刺青女が手拍子を打ち、老女のポスターはコップの中の入れ歯が拍子を合わせ、人魚のポスターは下半身が骨だけ。
両親の入ったゆりかごを揺らす赤子のポスター、鳩時計がサラリーマンになったポスターetc……
あと、ヒョウタンツギもバッチリいてニッコリ。

しかし、一枚独裁者のポスターが貼られると、次第に増殖していく。
剥がされなかったものも次々と戦争の内容になっていった……
戦争は、身近なところから忍び寄る。
最後まで残ったバイオリニストとピアニストのポスターの上にも独裁者のポスターが貼られるが、二人はそれでも曲を奏で続ける。
権力に最後まで抵抗したのが芸術というのが象徴的だし、爆撃で舞い上がりながら燃えていく所なんかワルツをバックにしているものだから優雅さすら感じてしまいました。
それにしても独裁者のポスターからバイオリニストを助けたばかりか、クマのぬいぐるみも助けて散っていったカンク坊やが殊勲すぎる。惜しい子を亡くした……(涙)

それでも、いつかは必ず悪い時は終わる。
女の子は無傷で、ボロボロになったぬいぐるみと無事に再会した。
そして街の再生を示唆するかのように、プラタナスが芽生える所で物語は幕を下ろす。
ここで廃墟化した街が急に奥行きのある構造になったのが印象的。マルチプレーンカメラだよねこれ?

生き物も無機物も等しく、それぞれの人生があるんだなと感じさせる一作でした。
イルーナ

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