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人間の條件 完結篇のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

人間の條件 完結篇(1961年製作の映画)
4.7
<人間の條件5部6部完結編>
壮絶だった。戦争が人間の精神を苛み肉体を蝕む残酷さがすべて詰まっていた。

見捨てられた関東軍の敗残兵たちは過酷な自然の満州~ソ連を彷徨う。荒野と森のどこにも味方がおらず、ソ連兵に怯え、満人の密告に心休まらず、四面楚歌であった。

人間が極限状態で生き延びるために、何を信念にし、最低何をして何をしないか、その都度に最適な道を選択できたものが生き延びる。しかしそれは「人間らしい」ことなのか、「人間らしさ」とは何なのかが問われていた。

人間らしさを求めた主人公の梶には怒りが蓄積していき、鬼と化していく。


<5部>弱肉強食

敗残兵として、食糧を求め満州の草原と山を彷徨う梶ら。途中、避難民と合流したり、他部隊の敗残兵たちと共に歩むが、鬼畜となった敗残兵に怒り、銃を向ける梶。強権で強引に人々を管理しようとする梶。共産主義に抱いていた理想が、民間人への暴力を見て、崩れていく。世界が別の原理で動きはじめ、新たな力と流れが生まれていた。


<6部>人間であることの罪深さ

狙撃の名手であることが、そもそもの矛盾であり、葛藤の元となる。これは「戦争と人間」の主役北大路錦也も同じ設定だった。反戦、軍への批判をもちながら、狙撃班として、相手を撃ち、人を殺す矛盾を抱えていく。

また、他の兵士が民間人に苛立ち暴力を振るうのと同様に、梶自身も軍人への要求と同じレベルを民間人に求める暴力的な厳格さがあった。

高峰秀子の存在が伏兵ともいえて、展開ががらりと変わる。戦地に夫や兄弟、息子を送った女性たちの心の叫びだった。梶が残してきた妻の声なのかもしれない。


<人間の條件全て>

仲代達矢の独壇場で、初主演とは思えない演技で、日本人兵士すべてと日本人に殺されたすべての人々の怨念が乗り移ったようだ。

戦争のすべての負と悲劇が盛り込まれ、どんなに強い信念と理想をもち、実行する力があるタフな人間でも、人間性を失うことは容易いことを証明する作品だった。

モデルはクリスチャンでも、宗教性は排されているが、全編、人間らしさを神に試されているようで、重く、人間であることの罪深さを感じた。

展開がドラマチックなので、9時間半は長くは感じなかったが、梶が妻の元に帰りたいと歩き続けた700日を4日に分けて鑑賞したことで、その長さを感じられて、結果的によかった。

ラスト観た後、第一部の最初を再度確認。理想を高く掲げた堅物の無垢な若者に会いたくて。

スコアは全6部への評価です。


U-Nextにて
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