masayaan

DIG!のmasayaanのレビュー・感想・評価

DIG!(2004年製作の映画)
3.5
気付けば、映画を観るという行為自体がほぼ1か月ぶり。『キャロル』をもう一度見よう、寝落ちした『ヘイトフル・エイト』のリベンジをしよう、まあ、そのうちね、などと悠長に思っていたら、ここまで来てしまいました。年度末の恐ろしさよ・・・・。

生活と、労働と、日々の濁り切った泡の中で、芸術はやはり束の間の現実逃避に過ぎないのだろうか?ということを問いたいわけでもないが、借りっぱなしだったディスカスの封筒を開封、『DIG!』なるドキュメンタリー映画を観てみると、そこには音楽に人生をかけた人たちの生き様が素描されていた。と言っても、順風満帆のサクセス・ストーリーではない。そこで音楽は、労働でもあり芸術でもあるように思う。

カメラは、90年代半ばにデビューし、「もしかしたら何かを変えるかもしれない」という業界の期待感を背負った二組のロック・バンドを、ふらふらと追いかけている。90年代・・・・ロックが、ポップ音楽の世界でぎりぎりメイン・ジャンルの一つであった最後の時代。その最後の象徴、Oasisの衝撃をアメリカの郊外で受け止めたかのような、レトロ・モダンなサイケデリック・ロック。当時のUSインディーでこんな音がなっていたのだなと、単純に勉強になった。

一組は売れ、躊躇なくメジャー契約を締結するものの、やがて気鋭のロック・バンドから退屈なポップ・バンドへと飼いならされていく過程が(こういう考え方自体がだいぶ時代遅れな気もするけど)淡々と描かれ、どこかで聞いたような「ギョーカイの腐敗」と「妥協的な成功」の物語をしょっぱく奏でている。そこでは、音楽はすでに労働であり(実際、彼らは大企業との契約労働者である)、契約解除に怯えながらかつての盟友たちを「切って」いく様はまさに戦略的なサラリーマンである。

もう一組、この映画でどちらかと言えば中心的な描かれ方をしている方のバンドは、天才肌だが性格にやや難あり、という、こちらもどこかで聞いたような「カリスマの栄光と挫折」の物語を(こう言ってよければ)予定調和に反復している。だいたい、Oasisが最終目標のバンドが94~95年にデビューして今さら何ができるのだろう。いや、何かができたかもしれないのだ。実際、中心人物のアントンは、「俺たちがデビューする前、ラジオではPearl Jamが流れていたが、俺たち以降、The White Stripesが流れるようになったろう」という。バンドの結成メンバーは彼以外、全員脱退してしまったが。

映画としてどうこう、というのはまったくない。ただ「ロック」という音楽のことをぼんやりと考え、気付くと眠たくなっていた。ロックが、ポップ音楽において流行遅れのサブジャンルとなってから久しいが、今日もまたロック・バンドは時代遅れの夢を見てはあっという間に消えていく。彼らの人生と、生活と、労働と、もしかしたら芸術的野心の結晶となった音楽を、人はアップル・ミュージックで冷やかし半分に聴いたり、聴かなかったりしている。好むと好まざるとに関わらず、人はいまそういう時代を生きている。ということをぼんやりと考えていた。
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