Stroszek

女狐のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

女狐(1967年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

1967年。原作はD. H. ロレンスの同名小説(1922)。

邦題はなぜか「女狐」となっているが、原作小説やDVDの惹句は"Symbol of the male"なので、雄狐である。狐の強い目力とポールの強い目力がともにマーチを捉えて離さないという重なりから考えても、狐は雄である。

ジーンズやファー襟付きコートといった服装や、トラックの外観から見ても、書かれた当時ではなく現代に舞台を移しているのだろうが、山奥に隔絶された小屋が主な舞台なので、正確には分からない。

カナダの森が舞台。ジル・バンフォードとエレン・マーチという二人暮らしをする女性たちに、ポールという男性が介入する。

エレンは鶏小屋を荒らす狐を狩ろうとするが、なぜかそれができず逃がす。雪山で出会うと、強い目線を交わす。

前半で、女性二人の生活が描かれる。ジルはエレンのことをマーチと名字で呼び、エレンはジルと名前で呼ぶ(ポールはマーチをエレンと名前で呼ぶ)。料理はジル、力仕事は主にエレンが引き受けている。ジルはスカート、エレンは動きやすいズボンという服装からも、前者はカップルの女役、後者は男役を引き受けていると分かる。二人はベッドをともにしているが、マーチはジルに背を向けて眠っている。

二人の生活に突然現れるジルの縁者ポール。数日間滞在する中で唐突にエレンにプロポーズする。ポールは二人の仲を妨害するジルと煮え切らない態度のエレンに苛立ち、鶏を囮にして狐を銃殺する。

この物語でポールは一貫して「終わらせる者」として描かれている。狐を殺すために鶏の首を切り囮にする。狐に悩むジルとマーチのために狐を殺す。女手二人ではなかなか切り倒せない大木を、二人の代わりに斧で切る。マーチを解放しないジルの上に大木を倒して事故か故意かは分からないがジルにトドメを刺す。

マーチはジルとポールの間で揺れ動き、ジルとの間では男役、ポールとの間では女役を引き受ける(ポールとの初夜を控えて着替えたピンクのワンピースの鮮やかさ!)。ポールが新生活準備のために一週間離れたら、また男っぽい格好に戻る。その間に、ジルとヨリを戻し、再び男役を引き受けるようになる。

"I've always loved you."とジルが訴え、マーチはそれにほだされる。大木を斧で打ちながら、彼女は"All the things I do for you!"とジルに笑いかける。そこへポールが帰ってきて、"Shall I finish it for you?"と言う。この"it"はあからさまには大木だが、比喩的にはマーチにとってのジルである。

ジルはポールが木の倒れる方向からどくように言ったのにどかない。ジルにとってはおそらく、大木は男性性の比喩である(木の股の間に映されるジル)。そこからどかないことにより、男であるポールにマーチは譲らないことを主張している。

大木の下敷きになりジルが亡くなると、ポールとマーチの家仕舞いの場面になる。虚ろな表情のマーチに、今後笑顔が浮かぶことはあるのか。

ポールとマーチが初夜を過ごした森小屋の扉には、ポールが殺した狐の毛皮が打ち付けられている(おそらくポールとマーチが同衾した翌日にジルが打ちつけた)。あれほどマーチを魅了した狐の瞳は暗ずんだ空洞になっている。それはマーチとポールの行末を示しているのかもしれない。

女二人、男一人、世間から隔絶した森小屋というミニマムな設定で繰り広げられる心理劇。

ラロ・シフリンの寂しげな音楽が、寒々しい雪景色によく合っていた。
Stroszek

Stroszek