本作で観客へ投げられる２つの問い
「自分は差別へ加担していないと思っているのか？」
「恋愛はそんなに尊い物なのか？」
その問いに、冷静ながらも温かい視線を感じました。
論理的思考、判断力が欠如したジョンドゥ。行動と発語がままならないコンジュ。誰からもまともに相手をしてもらえない2人が身を寄せ合い、幻想の様な希望にすがり、もがく物語。
2人への差別の描写に容赦が無い事にまず驚きます。容赦とは観客へ向けた容赦。今作で最も積極的に差別を行っているのは2人の家族。しかし、（特にジョンドゥ側の）家族周りの描写を丁寧に行う事で、彼らの行動を「仕方がない」と思わされました。私が同じ立場なら別の方法を選べるか、普段の生活の中で程度の差こそあれ同じ差別意識が無いのか、言い切れる自信はありません。
自分（達）にとっての幸せを追い求めるには、不都合な部分は切り捨てないと前へ進めない、そんな冷徹な一面が世界に当たり前に組み込まれている、自分達で作り上げている事を改めて思い知らされます。更にはその差別意識が作劇上も2人を追い詰めていく容赦の無さ。
恋愛へのシニカルな描写も特徴的だと思います。2人の馴れ初めから言って、もうこれでもかと反理性的。恋愛の段階を進めて行く過程も、到底論理的とは言えない判断で進んでいく。見てて思ったのは、「このまま上手く行くわけがない」。しかし考えれば、現実の恋愛も似た様な側面があるよな、とも思います。恋愛のどこかの段階で、論理的とは言えない飛躍で進むのは良くある事で。一般的な恋愛も、2人がすがった様な蜘蛛の糸の様なか細い希望をたぐる行動なのかもとも思いました。
冷徹な描写の中にある、寄りすぎず離れすぎずの、見守る様な視線に理性的な優しさを感じます。イ・チャンドン監督作、大事に少しずつ観進めていきたいです。
