ぴろ

百万円と苦虫女のぴろのネタバレレビュー・内容・結末

百万円と苦虫女(2008年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

【人間関係リセット癖 若者の苦悩をハートフルに描く】

映画スタンドバイミーにて、クリスがゴーディに自身の悩みを打ち明けるシーンがある。
"I just wish that I could go someplace where nobody knows me."
鑑賞当時18歳の私は、クリスのこの告白にひどく共感した。他人からの眼差しに疲れ、それまでの人間関係を全て断ち切ってしまいたいと願うことは、若者なら誰しも一度は通る道なのではないだろうか。最近では「人間関係リセット癖」という言葉もあるらしい。

今回鑑賞した『百万円と苦虫女』は、さまざまな事情からそうした"癖"を拗らせてしまった女性・鈴子が主人公だ。就職浪人中の鈴子は、とあるいざこざで前科がついてしまったことから実家に居づらくなり、「100万円貯まったら家を出ていく」と家族に宣言。その後も鈴子は、100万円貯まったら引っ越すという行為を繰り返し、海辺の町での海の家のバイトや山あいの村での桃農家のお手伝いなどなど、色々な街、色々な職を転々として行く。その中での出会いや別れ、鈴子の成長などをコミカルかつハートフルに描く。

ひとり根なし草のような生活を送る鈴子だが、実は行く先々で、向こうから彼女に歩み寄って来てくれる人たちと出会っている。しかし、鈴子は地に足をつけることに怯え、自分からそうした人たちと距離を置き、最後には引っ越しという形で関係をリセットしてしまう。

誰かと仲良くなっても、ふとしたことですれ違って、結局別れてしまうことが、怖い。他人に期待して裏切られることも、他人の期待を裏切ってしまうことも、怖い。
私も、人と関わっていると、楽しいという感情よりもこうした恐怖感が強く出てしまい、なかなか人と打ち解け合えない。だから分かる。

でも、鈴子は気づく。出会いは別れの始まりでもあるが、別れもまた、新たな出会いの始まりなのだと。鈴子は終盤、まだ未練の残る中島と別れ、「今度はもっと人に歩み寄ってみよう」と気持ちを新たに、次の街へ一歩を踏み出す。これからも多くの失敗をするだろうが、鈴子はもう大丈夫。
これは、逃げのリセットではなく、新たな自分に脱皮するための前向きなリセットなのだから。


【メモ】
○主人公・鈴子がとにかく地味キャラな本作。監督のタナダユキは、キラキラしていない蒼井優が見たかった、と話している。蒼井優って普通に幸薄系の美人だよね(失礼)。

○シネマトゥデイにて、蒼井優へのインタビュー(https://www.cinematoday.jp/interview/A0001832)

Q:本作の見どころを教えてください。

A:多分町で鈴子に出会ったとしても彼女は地味で目立たない存在だと思うのですが、そういう人でも焦点を合わせて追っかけてみることですごく魅力的に見えたり、いとおしく思えたり……。そういうことがこの作品の隠れたメッセージでもあると思います。観た人たちが鈴子のことをいとおしく感じたり、かっこ良く思えたりしたなら、それは観た人自身にも言えることなんだということをわかっていただければと思います。
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