このレビューはネタバレを含みます
ただただ、静謐で美しい物語。
昔観て (あまりこの陳腐な言い方は好きではないが) とても感動したので Blu-ray を買ったのである。
「この正月休みに絶対観る!」と決めていたので、作業終ってよーっし観るぞ!
と、勢い込んでプロジェクターもセットしたのに Mac で観られない罠。何でだ!
たまたま U-NEXT リトライ キャンペーンに申し込んでいて、見放題で観れたのでよかった! 感謝感謝!
結構、ギャグ要素あったりしたから 1 回目はパパンのとことか面白く観てたけど、見返して見るとローレンスもパパンもすごく重要な役目をしていたんですね。
この映画、「貧しい芸術家はいません」というところが一番の名言ぽいけれども、私の心に一番響いたのはむしろ下記であった。
「世界中の芸術家の心の叫びが聞こえる」
「私に最高の仕事をさせてくれ」
私は昔、とある種別のクリエイターを目指していた。しかし、自分に自信がなかった。家庭環境のせいは大いにあると思うが、とにかく傷付くことがとても怖かったのだと思う。
「才能」というものが「自分の能力を信じきれること」を指すのであれば、私にはその「才能」がなかった。
しかし、想いはずっとくすぶって、抱えたまま全然関係のない (こともないんだけど) 職業に就いた。
勉強は得意な方なので、手っ取り早く (?) 給料アップが見込めるもの。
現職はクリエイティビティということには遠く、職を得てもひたすら勉強は続くという世界。でもなんか、何とかなってるし。みたいな感じでダレてて。
しかし、最近その「元々やりたかったこと」を容易にやれる環境が与えられたのだ。時代が変って昔に比べて色んなことが可能になり、ハードルが低くなった。
最近映画を観る時間が取れていなかったのも、これに没頭していたせいであった。
まだまだやるつもりだけど、とりあえず今は一休み。多少の評価も付いてきて、作業に追われる日々から少し自分の時間を取り戻してみよう。
私と同じようにくすぶっている何かを抱え続けている人には、めちゃめちゃ響く映画ではなかろうか。
バベットの、とても満足そうな顔。思いやりに満ち満ちた、とても美しい映画。
バベットはこの晩餐会を開くまでに 14 年間も待機したのである。あれだけの腕を持ちながら、なんという我慢・忍耐であろうか。
姉妹にとっては叶えられなかった恋愛も、名声も。
一方で、手に入れた名声も将軍やパパンにとっては意味がなく。
でも将軍になったからあの場でみんなが将軍の話に耳を傾けた。遠回りしてそれがバベットを救った。
目先の事実だけでは、誰も何も報われていることがないように思うけれども。
離れても誰かを大切に想う。想う心が誰かと誰かを引き合わせ、巡り巡って幸せになる。
総合的に見ると、みんなが幸せになっている。その中心にバベットがいる。
バベットがあの料理を振る舞わなくても、みんながよそもののバベットのことを好きで、ユトランドに残って欲しいと思っていた。
それは「1 万フランを自分の好きな人たちのために遣える」というバベットだから、色んな場面で人に与えるものが多いのだろう。
家族と子供を殺され、「え? これ食べ物なの?」みたいな料理にも口応えせず従順にしたがう。
あんなことできますか?
あれだけの腕を持ちながら、バベットは残りの一生でもうその料理の腕を振るうことはないのかもしれない。フィリパの美しい歌声も、あんな片田舎で数える程度の人物しか魅了しない。
それでも両者とも不幸ではない。
「これが最後ではないわ」
「絶対に最後ではない」
という、最後のフィリパのセリフはきっと、自分に言い聞かせるものでもあるんだろうと思う。
やりたいことがあるなら、その火が胸の中でどんなに弱くなってくすぶっても消えないなら、きっとそれがいつか燃える日がくる。
その「いつか」は突然やってきて、考えるより決意するより先にもうとっくに行動している。
傷付くことも怖くなくて、ただただもう溢れる衝動に突き動かされるだけで。
いつか「その日」がくるから。「その日」がきて欲しいなら、絶対にその火を絶やしてはいけない。
いや、「そういうことになっている」のなら、その火は消えることはない。
わたしは芸術家ではないが、「私に最高の仕事をさせてくれ」という心の叫びはずっとあった。
そんな思いを抱えている人にはどストライクな作品だと思う。とにかく問答無用で私のベスト映画である。
これが万人にとってベストではないのはよく分る。
美しい美しい、幸せな物語。
GRAPEVINE の 'everyman, everywhere' (意味は「至る所に、凡人」だそうだ) という歌の歌詞が心に刺さるなら、この映画も間違いなく刺さるだろう。
バベットのごちそうの対比として、あのクソ不味そうな魚の煮込み (将軍が「塩も買えない」みたいなこと言ってたから味付けなし?) とパンを水とビールで溶いて茹でたものの存在がもう(笑)
昔、ドイツ料理のレシピ (洋書なので日本人向けとかになってないやつ) を見てミートボール的なものを作ったんですがめちゃめちゃまずかった。
「パンを水に浸してひき肉と混ぜる」みたいなことが書いてあって、できあがったのはとにかくもう言いようのないビシャビシャ感とまずさ。「ミートボール」ってボールになってないしみたいな。
(レシピ見て「いや、これどうなの? 絶対おいしくないよね?」と思っても、最初はとにかく忠実に作ることにしている)
多分あんな感じのレベルの食べ物なんだろうと思っている。
バベット、凄すぎだわ。100 年以上前の設定のごちそうだけど、めちゃくちゃおいしそう!
「カフェ・アングレ」って「カフェ」とか言われると日本人の私としては「カフェでフルコースのフレンチ?」みたいに思ってしまうんですが、前にゲントで「カフェ・ドゥ・バ (ブ?) ッフェル」みたいなところに入ったら (カジュアルなところでしたが 1 人で行って 40 ユーロくらいかかりました) 出てきた豚肉のステーキがめちゃくちゃおいしかった!
何これ!? 絶妙な焼き具合!!
「カフェ」なのにこんなレベルの高い料理出てくるの!? 美食の国ベルギー恐ろしや…
と、思ったんですがあっちで言う「カフェ」の定義って何なんだろ?
そして「ウミガメのスープ」言われると『世にも奇妙な物語』を思い出す私は古い人間だわ…。