つちのこ

オッペンハイマーのつちのこのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

非常に良かった。
IMAX で観たけれど、「IMAX で観たから」 だけではない没入感があった。
オッペンハイマー視点で描かれるシーンが三人称視点ではなく一人称視点というか、オッペンハイマーが視ていたものを、そのまま私たちも視ているような気分にさせてくれた。

今、世界でいちばん核の使用を止めてくれる映画かもしれない。


原爆を使用して大気に引火し、世界…… というか地球がなくなる確率は 「ほぼゼロ」 だが、決して 「ゼロ」 にはならない。

「戦争を止めるため、もっと犠牲を出さないために原爆を日本に投下する」

詭弁のようにも聞こえるが、事実だった側面もあるだろう。
その当時、生まれてもいなかった私たちにはそれを止めることもできなかったし、戦争の苦い苦い傷跡として、死者を悼むことしかできない。

そのおそろしさを認識し、2 度と核を使ってはならないと訴え続けることと。



つい最近『イミテーション・ゲーム』を観直したのだが、あれも暗号が解けてから、戦争を終結させて大きな犠牲を払わなくて済むように、見殺しにする国民、救う国民をアラン・チューリングたちがコンピュータ (今で言う AI だろうか) で決めていた。

アメリカの 911 が発生し、彼らは首謀者だったウサマ・ビン・ラディンに報復したわけだが、真珠湾攻撃をした日本に対し、きっと同じような気持ちで報復したのだろう。

真実も詳しいところも私にはわからないが、当時の日本が正しい方向に向かっていたとは思わないし、アメリカはよく日本のことを理解していたのだと思う。
日本軍は止まらない。日本の島という島を侵略するまで、止まらない。


半ば 「戦争を止めるため」 という詭弁はむしろ、日本に落とす云々より、「いちどでも原爆を落としてそれを世界に見せつける」 ことへの言い訳のようにも思った。

「物理学者たちは想像でそのおそろしさを理解できるから、原爆の投下などしないが、一般人は結果を見るまで理解しない」

残念なことに事実だろう。大体、「そんなことは起こらない」 と、決定権を持つ人間がタカをくくった場合に、悲惨な事件は起こるのだ。

一般人…… いや権力者たちが原爆のおそろしさを見れば、自分たちが優勢になるようにそれを利用する確率の方が高い。
平和であっては自分たちの利益は貪れないのだ。


いちど落とせば歯止めが効かなくなる。世界はまた核を使用しようとしている。
黙らせるにはうってつけの兵器なのだ。
日本に落としてもアメリカは平気だったし、日本はそれで降伏したのだ。
そんな前例があるから使いたい。

この先 100 年間で核が使用され、大気に引火して世界が消える…… などということにはならないかもしれないが、人類中心の歴史が続き、もっと強力な爆弾が開発されつつある。
原爆の使用で大気に引火する確率は 「ほぼゼロ」 だったが、もっと強力な爆弾はどうだろう。

「ほぼゼロ」 から 「0.000000000000000001%」 などと上がっていき、1 度や 2 度の使用ではなく、100 回、1,000 回、10,000 回と使用していったら。

いつか引火して、遠い未来に本当に地球はなくなる。
それを理解したから、「私たちは世界を壊した」 と言ったのだろう、そう思った。


彼らはその能力ゆえに一般人が作り得ないものを生み出してしまう。そしてそれは 「そんなつもりがなくても」 戦争に利用されてしまう。
ただその聡明な頭脳で、その先にあるものを視たくて、世界を理解したかっただけなのに。ただの好奇心とそれに見合う能力を持って生まれただけなのだ。

大なり小なり、こんな話はいくらでもあるのだろう。
能力がある人が利用されてしまう。
歴史はそうやって作られてきた一面がある。


広島・長崎の件があるので日本での公開が遅れたようだが、観られてよかった。
3,000 メートルの火柱とは、本当に神話にしか出てこないような話だが、現実に当時の被害者はそれを見たのだ。
なんておそろしい思いをしたのであろうと思う。

広島の平和資料館に行ったとき、結構な雨の中、日本人と思われない人も含め、長蛇の列を作って入館を待っていたのが印象的であった。
悲しい、悲惨な傷痕ではあるけれど、核の使用に反対する人が 1 人でも多く増えればいい。



キリアン・マーフィーもすごく良かったのだけれど、個人的にはストロースのロバート・ダウニーJr がすごく良かった!
彼だと全然気づかなかったが、本人? っていうくらい、感情がこもってて引き込まれた。