平成2年の男

読書する女の平成2年の男のレビュー・感想・評価

読書する女(1988年製作の映画)
3.0
・俺は一体なにを観せられているんだ、と自問自答しつつ、結局エンドロールまでこの映画に引きずられてしまった。

・エロスと死は、対極であり、かつ同極の関係にもあると説いたのはバタイユだったか。本作の醸し出す官能には、死の象徴が極限まで排されており、かと言って生命的なモチーフが介在しているわけでもない。本作のエロスは薄味なヒューモアに常時包まれている。それが個人的に凄く新しくて、こんな風にしてエロティカを描く方法もあるのかと己の感性の拡張される思いがした。

・ノルスタジー溢れる街並みは、それだけで作品全体を引っ張る力がある。ほか、クソみたいに広い間取りと贅沢な家具配置、カメラのショットセンスやシーン間の余白の使い方等に、なるほど、これがフランス映画か、と感嘆した。フランス映画とはなんたるかを学ばせてもらった。

・「これは読書する女ではなく、朗読する女だ」という秀逸なレビューがあった。同感である。もちろんシュリンクの「朗読者」とはテイストが異なる。

・モーパッサン、サド、ボードレールあたりのメジャーどころしか出ないのかなと思いきや、ジョワン・デュ・バレーとかいうめちゃくちゃマニアックな作家をぶち込んでくる。「金羊毛」がすごく好きな文体なので、読んでみようと思ったが、何処にも翻訳が見当たらない。