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それから(1985年製作の映画)
3.7
森田芳光監督による夏目漱石の「それから」。主人公が松田優作、友人役が小林薫、友人の妻が藤谷美和子。不倫の末の略奪愛でホラーチックです。

邦画の間延びした間合いが苦手ですが、これはちゃんと余白として間が存在し、文学的作品の風格を作っていました。

松田優作の空気を含んだような話し方が、何を考えているのかわからない、<高等遊民(ニート)>の代助に合っていました。ただお坊っちゃまには見えなかったな。

働かないが裕福な暮らしの代助と、銀行で部下の罪を被って辞め、必死に就活し、自暴自棄になってイライラしている平岡。平岡の肩をもちましたね。

ただ、キャスティングとしては三千代の兄役の風間杜夫が代助の雰囲気に合いそうでした。代助は情けなく、社会的に自立していない。何も現実的に考えられない人。三千代に会って諭したい気分になって観ていました。

二人の密会は、息むせぶ濃厚な百合の匂いがします。

森田監督らしいカメラアングル。
タテ、ヨコ、ナナメ、マシタ。
殴りあいも、密会もカメラに向き、あえての平面的な画。

バスの中の幻想的なシーンがおもしろい。シュールな絵画調でポール・デルボーを彷彿します。

照明の当てかたが、大正ロマンやサスペンスを感じさせ、少々おどろおどろしく、狂気が見え隠れします。松田優作の秘めた暴力、藤谷美和子の既に狂っているかのような演技。心のバランスが崩れていくようすにハラハラさせられます。

原作は新聞連載していたことから、挿し絵のような画で、森田監督の解釈が単調になりがちな小説に色気を与えていました。

花器の水を飲む三千代が怖い。それはスズラン。
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