O次郎

野獣死すべしのO次郎のネタバレレビュー・内容・結末

野獣死すべし(1959年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

59年制作の大藪春彦原作ハードボイルド活劇。若かりし頃の仲代達矢さん主演。
ちなみにモノクロ作品。

学生運動や赤狩り、公職への偏見等、時代を表彰するエッセンスが其処彼処に在るうえ、登場人物の殆どがやたらと理屈っぽく人心や社会を語るので、制作当時の時代に頭をスイッチしないと滑稽で笑ってしまう可能性大。

また、銃撃シーンが要所要所に存在するが、効果音と硝煙のみで出血や負傷痕等が全く無いのがどうにも白けてしまう。
制作時期を考えると致し方無いが、せっかく銃器への拘りの強い大藪作品だっただけにもう少しなんとかならなかったのだろうか。

個人的に気に入っているのが、物語中盤、大学の経理課からの学費強奪で手に入れた大金を酒場でチラつかせ、それをエサに花売りの老女を唄って踊らせるグロテスクなシーン。
意を決して言われるがままに唄い踊る老女を周囲の人々が気の毒な目で見る中、主人公は特に嘲笑するでもなく、ただただ冷徹な眼を向け、やがて興醒めしたように札をばら撒いて去る。
偶然同席していた刑事に後日、「他人のセンチメンタリズムに訴えて金儲けをする...人として一番下劣ですよ」とその理由を語るが、画としての醜悪さと主人公の仄暗い倫理が表れていて唸らされた。

余りにも有名な松田優作版と違い、警察の追及を撥ね退けて悠々と海外留学に旅立つラストはダークヒーローの姿としてなかなかに溜飲の下がる思い。

ただ、警察が無能っぷりを露わにしてる一方で御都合主義的偶然で主人公に辿り着いたり、警察の捜査をミスリードするために巻き込んだヤクザ組織がこれまた間抜けだったり、いろいろと詰めが甘いのは正直感じる。
特にヤクザについては数人を主人公に殺されて終盤は鳴りを潜めてるが、メンツが何より大事な商売なからには警察顔負けの追跡と復讐を企てて当然だろうに。


他方で、団令子さん、白川由美さんといった綺麗どころの女優さんが出てる中、主人公の野望の犠牲者の一人として年若い未成年の男娼が出て来たりと、なかなかに時代を先取りするセンセーショナルな場面も有り。

ともあれ、若き仲代達矢さんのクールな役を堪能するにはピッタリの一作。
もしこれを気に入ったら、ニヒルさとコミカルさを兼ね備えたどこか愛嬌のある主人公像が楽しい、岡本喜八監督作の「殺人狂時代」もオススメしたい。
O次郎

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